ラジオ番組の作家として働く27歳のアダム。彼は突然、脊髄の癌と宣告されてしまう。親友、母親、そしてがんセンターの若いセラピストの助けを借り、アダムは彼の人生で最も重要なものとは何かを探す旅に出るのだが…。
『50/50 フィフティ・フィフティ』作品情報 | cinemacafe.net
TOHOシネマズ宇都宮で観てきました。
27歳という若さでガンになってしまった男性のお話ですが、難病モノにありがちな過剰に悲壮感をただよわせて涙を誘おうという作品ではなく、病気の進行や自身をとりまく人々・環境の変化に悩んだり苦しんだりする主人公アダムを淡々と描いたよい作品でした。
冒頭、自分が大病をわずらっていることを宣告されたアダムはあまりに予期していなかった事態にひどく混乱してしまいます。タバコやお酒を好んで常用しているわけでもなく、むしろ日常的にジョギングをしたりしながら健康的に生きてきたという自負のある彼の混乱ぶりは、似たような生活を送っているわたしにも痛いほどよく伝わってきました。
健康的な生活をしているから病気にならないとはさすがにわたしも思っていませんが、でも世の中にはもっと不健康で適当に生きている人たちがたくさんいるのになんでよりによって自分が...とその理不尽さにいきどおる気持ちもあるのでしょうし、何よりもいままでとおなじ生活が送れなくなることに対する悲しみもあると思います。
そういった一切合切の感情すべてが一気に噴きだして混乱する様子があまりに真に迫っていて、最初からかなりのめり込んでみてしまいました。
観終わって作品全体を俯瞰してみて感じたのは徹底したリアリティです。
物語には大きく抑揚がついているわけでもなく、がんの告知から徐々に悪化して手術を受けるまでについて冷静に描かれています。どこにも驚くような飛躍はなく、看病に疲れた彼女は離れていき、がん患者の仲間は死んでいき、病気は徐々に悪くなって手術を受けなければならなくなるのです。
1シーンで状況がガラリと変わるような劇的な変化というのはなにもないのですが、でもそれって現実そのものなんじゃないかなと思うのです。
ドラスティックであればたしかに映画で観る物語としては面白いのかもしれませんが、でも現実ってそうじゃなくて状況の変化は常に連続的で気付けば変わっていたというものです。この作品は難病にかかった男性を題材にしていますが、それは結局われわれの日常の延長に過ぎないことを丁寧に描いています。
だから観ていて自分がこうだったら...と考えさせられるシーンが多くて正直怖いと感じるところが多かったし、がんになったことのないわたしにもそう感じられるリアリティがたいへんすばらしいと感じました。
ただ、わたしがこの作品をいいと感じるのはそういった病気になった人が観る世界をただリアリティをもって描くだけではなく、笑いや希望をまじえることで過度に気持ちが重くならないように配慮されていたところだと思うのです。
誰もが病気だというとうわっつらだけの優しい言葉をかけてきたり、距離をとろうとする中で、唯一普段どおりに接してくれるカイル。アダムの病気をネタにして女の子をナンパしたり、ナンパした女の子とセックスするために夜中まで病人を引っ張り回したりとたいへん容赦がありません。ですが、病気であることをカミングアウトして以来、誰もが取って付けたように優しく接してくることに辟易としていたアダムにとって、カイルのように病気前と何もかわらない言動や行動で接してくれることが大きな支えになっていくのはすごく分かる気がするんですよね。
そして、そんなふうに適当に接しているようにみえるカイルも、陰ではがん患者と接するときの心構え的な本をちゃんと読んでたりするわけですよ。相手のことを考えていないようで、実は一番考えているカイルの優しさはこの作品に抱いた印象に大きな影響を与えているなと感じました。
カイルを演じたのは「グリーン・ホーネット」にも出ていたセス・ローゲンなんですが、彼のひょうひょうとした表情や振る舞い、くだらない下ネタやギャグはこの作品になくてはならないとさえ思っています。
くわえて、セラピストとしては半人前ながら他人に自分をさらすことの大切さを教えてくれるキャサリンもよかったですね。彼女はまだ博士号ももっていないし担当した患者も少ないんだけれど、自分の欠点を取り繕ったりせずに自然体で接する彼女にアダムが心を許して惹かれていくところはすごく分かるなと思ってしまいました。
アナ・ケンドリックがかわいいから!っていうのもあるとは思いますが、こんなかわいい子と出会えて、しかも相手から電話番号を渡されたりしちゃったら、生きる希望もわいてきて当然じゃないですか!
ホントかわいいなあ。
難病モノといえば、とかくおなみだ頂戴的な過剰な演出に偏りがちというイメージがありましたが、本作はリアリティと笑いが心地よいくらいに融合したすばらしい作品でした。
あとちょっと毛色は異なりますが、「私の中のあなた」という映画をひさしぶりに見たくなりました。
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