「ミッション:8ミニッツ」見たよ


政府の極秘ミッションに従事する米軍のエリート、スティーヴンス大尉(ジェイク・ギレンホール)。彼に与えられた任務はシカゴで乗客全員が死亡した列車爆破事故の犯人を見つけることだった。事件解明のため、彼は爆破の犠牲者が死亡する“8分前の意識”に入り込む。だが8分はすぐに過ぎ、スティーブンは元の自分に戻ってしまう。犯人を捕らえるまで続く無限ループに、そもそも過去を変えて乗客を救うことなど可能なのかという疑問が生まれ始める。なぜ、この任務にスティーブンが選ばれたのか。このミッションに隠された禁断の真実とは…?

『ミッション:8ミニッツ』作品情報 | cinemacafe.net

(注意)
今回は内容や結末に触れまくっているので未見の方は読まずにぜひ映画を先にご覧ください。もし映画を観ないで読んだら絶交です!


フォーラム那須塩原にて。


かなり限定された状況を最大限に活かして使い倒しているとてもおもしろい作品でした。
とりわけすばらしかったのは、この奇妙な状況を短時間で観客に理解させてみせたことに代表されるように物語の語り口やその見せ方のうまさでして、そのおかげで状況の理解に困ることなく作品の世界に引きこまれました。


さて。
作中にて、スティーヴンスを8分間だけ別の世界に連れ出すプログラムの説明する際に量子力学という言葉が出てきましたが、最初は正直これが意図するところがよくわからなくてあれこれ考え込んでしまいました。一般的に量子力学と言えば、波動関数不確定性原理なんでしょうが直接的にこのプログラムとどう結びつくのかなと考えながら観ていたのです。


はっきりしたことはよくわからないというのが率直なところですが、もしかしたら「初期パラメーターが決まればその後のすべての運動が決定づけられる古典力学的な世界」との対比として「特定の過去に同じ初期パラメーターを与えても確率によって起こる現象が変わるために決して同じ未来が生じない世界」のことをそう表現しているのかなと、観ながら思ったのです。


量子力学においては「ものの位置と速度を同時に誤差なく決定することはできなくて*1、どこにいるのかは存在確率で示すことしかできない」ということが示されています。このことは、すべてが決定論的に行われているように見える我々の目に前にある現実とは相いれず、直感的にはにわかに理解しがたいと思いますし、物理学科だったくせに私はこのあたりがなかなか理解できなくてすごく悩みました。
そして理解するだけでも大変なのに、こういったことに気付いてそれを体系立てて理論としてまとめてしまうその洞察力と叡智、そして思考の柔軟性にはほとほと感心させられます。


話がそれましたが、このようにすべてにおいて確率的ゆらぎが存在することは、今この瞬間を起点に無数のパラレルワールドが存在することを指し示すわけで、スティーヴンスが連れ出された8分間の世界というのはまさにそういう世界だったわけです。


電車内の人物配置は毎回まったく同じくセットしてこれを初期パラメーターとしてあたえるのですが、その8分後に生み出される世界は毎回同じにはならず毎回異なる8分後が訪れます。つまりこのソースコードが構築した世界は決定論的な古典力学的な考えのもとに構築された世界ではなく、すべてが確率でしか決定づけられない世界だったのです。


ティーヴンスはそのあまたの平行世界のひとつで大切な人を守りきり、8分先も続くことのできた世界を生きていくことができるようになったわけでそのことはとてもうれしいと思ったのです。すごくグッときました。


でも...。
ラストまで観て「すごくいい話だった!」とワクワクする一方で、でもどうしても心の中にしこりというか疑問が残っていたんです。人が人として生きてるってどういうことだろう?って。


肉体の死が人の終わりではないのか?とか、じゃあ人間の本体ってなに?とかいろいろと考えずにはいられませんでしたし、去年観た映画の好きな作品トップ3に選んだ「レポゼッション・メン」という作品があるのですが、そのラストを観たときとおなじ気分にさせられました。この作品もそれくらい大好きです。


とまあ、いろいろと言いたいことが山積みの作品なのですが、一番つよく感じたのは「わたしもいつかこんなクローズドで完全な世界を生み出すプログラムを作りたいなー」ということなのでした。C++で書けるかな?


(追記)
ちなみにタイムリープパラレルワールドの関係については、わたしは「七瀬ふたたび」に代表される七瀬シリーズから受けた影響がすごく大きいです。未読の方で興味がある人はぜひ読んでみてください。
ただ、2010年に公開された映画の方はおすすめしません...。


家族八景 (新潮文庫)

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七瀬ふたたび (新潮文庫)

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エディプスの恋人 (新潮文庫)

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(追記2)
今日、本屋に行って量子力学の本を見てきました。
専門向けではなく読み物的なものを物色してきたのですが、最近多い「萌絵系」や「マンガで説明系」の本は軒並み説明が分かりにくいうえに話もおもしろくなかったです。表紙だけみて買ったら絶対損するので要注意!

[図解]量子論がみるみるわかる本(愛蔵版)

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不思議な量子―奇妙なルールと粒子たち

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*1:測定誤差ではなく、本質的に限界がある