「水銀灯が消えるまで」読んだよ

水銀灯が消えるまで (集英社文庫)

水銀灯が消えるまで (集英社文庫)

郊外のさびれた遊園地「コキリコ・ピクニックランド」には、なぜかわけありの人々が集まってくる。勤め先の金を持ち逃げし、遊園地の物置に住みついた女性銀行員。愛人に会社をクビにされた美人の受付嬢。記憶喪失で行き倒れていた正体不明の女性…。さまよう彼らに、居場所は見つかるのか?ユーモラスでどこかせつない、気鋭の歌人のデビュー小説集。

Amazon CAPTCHA

「表紙が酒井駒子さんの絵」というただそれだけの理由で手にした本でしたが、すごくよかった。長い人生の中で一瞬だけ訪れる不思議な瞬間。そのいずれも誰もが経験するような内容では決してないのですが、誰もが深く共鳴出来る出来事が起きるその一瞬を切り取って見せた面白さには思わず舌を巻いてしまいました。これはすごい作品!


以前どこかでも書いたような気がするのですが、人は調子の悪い時ほどよい出会いに恵まれるものだというのがわたしの持論です。
みなさんも思い出してほしいのですが、大きな失敗をして打ちひしがれている時や好きな人に振られた時など、どうしようもなく落ち込んだ時に友だちが増えたり、自分にとってすごく大事な人と仲良くなるという経験はないでしょうか?
わたしは長く付き合う人と言うのは大体そのパターンで知り合った人ばかりでして、人生の底みたいな状態にいる時ほどいい人と出会うという経験をしています。
その理由についていろいろと考えてみて、例えば「人生はうまくバランスが取れるようになっているので嫌なことがあった後にはいいことがあるんだ」なんてことも考えてみたりしたのですが、最終的にたどり着いたのは「飛ぶ鳥を落とす勢いの人よりも落ち込んでいる人の方が話しかけやすい」ということなんじゃないかということでした。
これはわたしの感覚的な理解なのですが、調子に乗っていてアクティブな人というのは地に足がついていなくて外部からの言葉に耳を傾ける余裕がないケースが多いように感じます。自分中心的な考えが頭の真ん中にどっしりと腰を下ろしてしまっているのです。
逆にものすごく落ち込んでいる人というのは今いる自分の立ち位置を確認しなければアイデンティティすら見失ってしまうほど不安定なので、逆にしっかりと自分の今居るこの場所に根を張ろうとするし、外からの言葉にも救いを求めて全部の話をしっかり聞こうとするのです。


なんて、こんなのは私の思い込みと言われたらそれまでなのにですが、とにかく調子のいい時よりもいまいち乗り切れない時の方が友だちが増えるし、そういう時に作った友だちと言うのは長続きするというのがわたしの持論なのです。
本作を読んでその思いをまた新たにしましたし、わたしの持論はきっと間違っていないという想いをより一層強くもちました。


酒井さんが表紙を描いた作品にハズレなし伝説はこれからも続きそうです。