「はるがいったら」読んだよ

はるがいったら (集英社文庫)

はるがいったら (集英社文庫)

気が付けば他人のファッションチェックまでしている、完璧主義者の姉。何事も、そつなくこなすが熱くなれない「いい子」な弟。二人の間に横たわるのは、介護され何とか生きる老いぼれ犬。どこかが行き過ぎで、何かが足りない姉弟の物語。第18回小説すばる新人賞受賞作。

http://www.amazon.co.jp/dp/4087747921

とても色鮮やかでかわいらしい表紙に惹かれて購入しましたが、期待していた以上に心にひびいてくるすばらしい作品でした。
自分自身からみた自分はいかに欠点だらけに見えるのかということ、そして他人から見るとそういった自分自身にとっての欠点というものがさほど取るに足らないものに見えていることがとてもよく伝わってきました。他者に対して劣等感ばかりを抱いていた10代、20代の頃のわたしにぜひこの本を読ませたいと思いました。


働くようになってからなんですが、寝る前とか走っているときとかにふと昔のことを思い出すことがあります。
高校生の頃のことや大学生の頃のことなど、時期や出来事はバラバラですがどれもささやかだけど忘れがたいことばかりでして思い出しては反芻してその思い出に浸り、そしてまた記憶の片隅に仕舞い込むということを繰り返しているのです。
ではわたしにとって忘れられない思い出とはどういうものが多いのかというと、ほとんどが恥ずかしくて身もだえしたくなるものや悔しい思い出ばかりです。つまりは失敗談がほとんどなんですよね。


ネットでも現実でも、高校生とか大学生の頃に戻りたいという人がいますが、そういう人はきっと過去を振り返った時によい思い出がまっさきに思い浮かぶ人なんだと思います。でもわたしはそうではなくて、ずっと抱えこんでいた劣等感を肥大化させて押しつぶされるきっかけになるようなことばかりを思い出してしまいます。だから昔に戻りたいなんて思わないし、いつだって今が一番幸せです。
でもこの本を読んで分かったのは、結局わたしが思い出すようなわたしにまつわる恥ずかしい出来事を覚えているのは当事者だったわたしだけだということ。他の人はそんなこと誰も覚えていないし、だから他の人の記憶にあるわたしの姿というのはわたしのそれとはまず一致することはないということです。
読み終えてわたしが抱えていた劣等感が幾分和らいだような気がしますし、気分がよくなったことは間違いありません。とても癒されました。


過去2年間、ナツイチのコーナーで買ってきて最初に読む作品はすばらしい作品でしたが、今年もまたものすごい傑作に出会うことができました。夏はやっぱり読書の季節です。


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