「恋と退屈」読んだよ

恋と退屈  (河出文庫)

恋と退屈 (河出文庫)

若者に絶大な人気を誇るロックバンド銀杏BOYZの歌手・峯田和伸、初の書籍。自身のブログで公開していた『峯田和伸の★朝焼けニャンニャン』から厳選した150話のストーリーを収録。

http://www.amazon.co.jp/dp/4309410014

わたしは銀杏BOYZの楽曲は聴いたことがないし、メンバーがどういう人なのかも知りません。唯一のつながりは、ボーカルの峯田さんが出ていた「ボーイズ・オン・ザ・ラン」という映画を観たというそれだけです。この作品で田西という冴えないオーラ全開の男性を演じていたのが峯田さんなのですが、作品自体もかなりインパクトがある内容でしたし、何より峯田さん演じる田西という人間があまりに高過ぎる完成度でひとりの平凡な人間を描いていたために鑑賞後に体育座りをして遠くを見つめてしまいました。脚本、演出がすばらしかったのは当然ですが、それ以上に峯田さんがまっすぐに演技して表現する姿にわたしの心はへし折られたのです。


ここまで峯田さんに感化されたのであればすぐにでも彼の楽曲を聴いてみるべきだと思ったのですが、なぜか聴いてしまうのがとても怖くていまだに聴く事が出来ずにいました。


さて。本書は峯田さんが5年ほど前に書いていたという日記が文庫化したものであり、本屋で平積みされていたので手にとってみましたがこれが期待以上におもしろかったです。この本は彼の日常、または高校時代や進学で千葉に住み始めた頃の思い出が150回にわたって書き記された内容であり、そのどの部分にも下ネタやらくだらないことがところ狭しと書き記されているのですが、読んでる最中から「これは全部読むとまずいかも...」という思いでいっぱいになりました。それでもどうしても読む手を止められず、途中一度寝落ちした以外はほとんど一気に読み終えてしまいました。


この本に書かれているのは上でも書いたとおり峯田さんの日常や過去の思い出がほとんどなのですが、書きたいことがものすごくストレートに書かれているのが非常に印象的でした。言葉を選んでいるなという印象は受けたし、言葉や表現が汚い割には一方的に悪口を書き綴ったり罵倒したりすることはありませんが、どの言葉も彼の本心や本当の気持ちがものすごくまっすぐありのままで紡がれていると感じたのです。思ったことをそのまま書くというのは簡単なように思えてとても難しいことですし、まして文章として外部に公開するものであると思えばなおさらそうではないかと思うのですが、彼は妥協せずに自分の言葉として伝えたいところまでちゃんと表現していたのです。
下品だとかくだらないという批判をおそれずに自らのことを赤裸々に語る彼の文章を読んで、わたしはものすごく動揺してしまったし、こういう行動の取れる人がうらやましいと感じたし、そしてなぜわたしが彼の楽曲を聴こうとしなかったのかという理由もわかったのです。


わたしは他人からの評価がものすごく気になってしまう小さな人間なのですが、それに加えて自分自身に自信がもてないので他人から評価されること自体がとても怖いと感じてしまうのです。30歳過ぎたおっさんが他人から批判されることが怖いだなんてホント恥ずかしくて人には言えない*1のですが、でも実際にそうなんですよね...。
だから自分が否定されたんじゃないかと思うような行為を目の当たりにすると結構落ち込んでしまうわけで、例えばブログに書いたことに対して怒りのコメントみたいなのがつけられると気が滅入るし、はてブのお気に入りからはずされたりtwitterのフォローワーが減っただけでも少し落ち込んでしまうのです。


結局なるべくそういう目にあわないようにするためにどうすればよいのかと言えば、ブログにもtwitterにもあまり過激なことは書かずに穏便なことを書こうとしてしまうわけですが、それだと本当につまらないんですよ。毒にはならないけど、薬にもならない人畜無害だと言うだけなんですよね。
もちろん単に過激なことは書かないようにしようとだけ思っているわけではなくて、「どんなものでもなるべくいいところを見つけて褒めたい」と思って映画や本の感想を書いているわけですが、その記録の過程で反発されそうなものは極力削っています。それは読んだ人に不快感を与えないようにと思っていましたが、一番の目的は無駄に敵を作らないための権謀術数でしかないんです。
これは自身で決めている一例に過ぎませんが、熱狂的なファンの多い某アニメをつまんないと書いてことで閉鎖に追い込まれたブログや、熱心なファンの多い俳優の演技をこきおろしたことでコメント欄を閉じざるを得なかったブログを知っているだけにそういった類のことは積極的に書かないようにしているのです。たとえ本気でつまらないと思ったとしても書かない。
意識している/していないものを会わせると自分に課した制限がわたしには結構多くあるんですよねー。


それ自体が悪いわけではないと思うけれど、それでもこの本のような本音をガツンとぶつけるタイプの文章を読むと何だか自分はこんなんでいいのか?とグラグラしちゃうわけで。さらにこの本を読んで初めて知ったのですが峯田さんはわたしと同い年なんですねー。しかも山形出身なので、本の中でミュージック昭和なんて固有名詞*2も出てきたりして、会ったこともないのにものすごい親近感をおぼえてしまったんですよね。
そんな彼が書いた飾りのないまっすぐな文章だったもんなので、どうも調子が狂うというか自分が書きたいのは本当にこれなのかとか考え出すともう自信がもてなくて...。


たぶん彼のまっすぐさというのは「ボーイズ・オン・ザ・ラン」を観た時に直感的に感じ取っていて、自分に出来ない感情や考えをストレートに表現する強さがとてもまぶしくて怖かったんじゃないかなーというのがこの本を読んでわかった自分なりの答え。だから彼のアウトプットである楽曲に触れるのがすごく怖かったんじゃないかな。


どうもこの本を読んでから書くことにすごく自信がもてなくてうまくまとまらないのですが、わたしにとってはまさにあけてはならないパンドラの箱のような存在だったことをこの本を読んでつよく感じているところです。でもここで一度目を背けていた自分の弱い部分と向き合わなきゃいけないなと感じたのでした。



(関連リンク)

*1:でもブログには書ける

*2:わたしは学生時代にこのミュージック昭和に徒歩2分くらいのところに住んでいたのですごい懐かしかったです