- 作者: 初野晴
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/08/25
- メディア: 文庫
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医学的には脳死と診断されながら、月明かりの夜に限り、特殊な装置を使って言葉を話すことのできる少女・葉月。生きることも死ぬこともできない、残酷すぎる運命に囚われた葉月が望んだのは、自らの臓器を、移植を必要としている人々に分け与えることだった―。透明感あふれる筆致で生と死の狭間を描いた、ファンタジックな寓話ミステリ。第22回横溝正史ミステリ大賞受賞作。
http://www.amazon.jp/dp/4048733826
場面場面の描写がちょっと分かりにくいなと感じる部分が結構多かったのでその点がちょっと残念でしたが、作品をとおしての大きな問いかけである生と死の違いって何だろうという部分がとても興味深く感じられました。また、各ストーリーを章立てにすることで、作品のメインフローである葉月と昴の存在に気を取られることなく、ひとつひとつの話に集中出来るように構成されていたのはとてもよかったと感じられました。
また、章分けをしていることで個々の話が分散してしまうのかというとそうではなくて、各章を読み終えるとちゃんとメインフローに組み込まれていることが明確に感じられます。実に巧妙でうまいなと思います。
そしてストーリーの内容についてですが、生と死の違いを見極めることの難しさというものがとてもよく伝わってきたし、生死の狭間にある人間と生きている人間が月がある夜にだけコミュニケート出来るという条件付けも非常に面白いなと感じました。
現実と空想の境界線上にあるような世界観がとても絶妙で私はこの作品の事がとても好きになったのですが、その中でも特にラストで葉月と昴の隠された関係が判明するシーンはとても印象的でそして衝撃的でした。こういう展開はとても好きだけど切ないな...。
そしてもうひとつ面白いと感じたのは、読み始めて早々にある疑問が私の中に浮かび上がってきたのです。
それは、死と生の狭間に置いてけぼりにされた葉月がなぜ自らが生きたままの状態でその肉体の一部を人々に分け与えたいと願っているのか、まったく理解出来ませんでした。
もちろん、世の中にはアイバンクや臓器バンク、献体へ積極的に登録する人がいるということは知っていますし、そのような死後に自らの体の一部を提供する行為については何となく理解の範疇でした。そして、例えば骨髄バンクのように、体の一部とは言っても以降の日常生活に影響が出ない程度の部位を譲与するというのもわかる気がします。
でも心臓や目といった、「生きる上で絶対に必要な身体部位を生きている間に移植をしたい」と願うことの意味が分かりませんでした。
そんなもやもやとした気持ちを抱えたまま読み進めていったのですが、章内や章間に挿入された昴と葉月の会話や結末を読んでいるうちに、少しずつ葉月の気持ちが分かったような気がしたのです。
自らが生きていた証、もしかしたら生きてきた意味として大事な体の一部をこの世の誰かの体の一部として残したい。そしてその授受に昴を関わらせることで自らと昴の間に接点を作りたい。それが葉月の心境だったのだろうと感じたのです。そのことにどれだけの意味や価値があるのかは正直まったく分かりませんが、でもそうしたかった葉月の心境だけはこの本を読み終えた今であれば理解出来るのです。
また読み返してみます。