「MOMENT」/「WILL」読んだよ

死には匂いがある。

いつからそう思うようになったのかは分かりませんが、わりと幼いころからわたしはいつもそう思っていました。

わたしが初めて近親者を亡くしたのはおそらく10歳のときに父方の祖父が死んだときなのですが、そのときには既に「死の匂い」というものを自分は知っていたように記憶しています。ただ、それよりも前に死というものと直接かかわったことがなかったことを考えれば、祖父が死んだときに死の匂いというものをおぼえたのかも知れません。このあたりの起源についてはちょっと記憶があいまいですが、とにかくわたしは死を想起させる匂いというものを知っています。


ただ「その匂いはどんなものなのか?」ということを言葉に置き換えるのはたいへんむずかしくて、うまく説明する自信がありません。


たとえば大事な誰かを失ったあとしばらくしてからふとした瞬間にその人の不在を知ったときに全身の力が抜けるような一瞬というのがおそらく誰にでもあると思うのですが、そのときにふっと感じるのがその匂いなのです。つまりなにかが発している匂いというよりも、死をつよく意識した瞬間に生じる鼻の奥の変化がその匂いを引き起こしていると思うのです。


なんて書き方じゃよくわかんないですよね....。


ま、そこをうまく説明するのはあきらめるとして、7年前に読んだ「MOMENT」と先日読み終えた続編というかスピンオフに位置付けられる「WILL」は、死の匂いが色濃く感じられるとてもおもしろい作品でした。



MOMENT (集英社文庫)

MOMENT (集英社文庫)

死ぬ前にひとつ願いが叶うとしたら…。病院でバイトをする大学生の「僕」。ある末期患者の願いを叶えた事から、彼の元には患者たちの最後の願いが寄せられるようになる。恋心、家族への愛、死に対する恐怖、そして癒えることのない深い悲しみ。願いに込められた命の真実に彼の心は揺れ動く。ひとは人生の終わりに誰を想い、何を願うのか。そこにある小さいけれど確かな希望―。静かに胸を打つ物語。

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「MOMENT」は死を目の前にした人が多く集まる病院で死ぬ前の最期の願いをかなえる役割を担ったある男性の物語です。

自らが死ぬと分かったときに、人は何を願うのか。

ある人は自らの復讐代行を依頼し、ある人は修学旅行で出会った年上の大学生に再会したいと願うのです。死を前にした人が「これだけはかなえておかなければ死ねない」とつよく想う願いは意外にささやかだったり、ときに全身がこわばりそうなほどおそろしいモノだったりするのですが、どれもがとても切実で


わたしが一番好きなエピソードは「FIREFLY」です。

「肉体が死んだとき」と「自分を知っている人がいなくなったとき」

人はその2回死ぬと言われますが、自分の力ではどうにもできない1回目の死ではなく2回目の死の到来を遠ざけようとするある女性の行動がとてもグッときました。最近はわたしも2回目の死が怖いと思うようになったんですよね...。




WILL (集英社文庫)

WILL (集英社文庫)

11年前に両親を事故で亡くし、家業の葬儀店を継いだ森野。29歳になった現在も、寂れた商店街の片隅で店を続けている。葬儀の直後に届けられた死者からのメッセージ。自分を喪主に葬儀のやり直しを要求する女。老女のもとに通う、夫の生まれ変わりだという少年―死者たちは何を語ろうとし、残された者は何を思うのか。ベストセラー『MOMENT』から7年、やわらかな感動に包まれる連作集。

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「MOMENT」の主人公、神田の幼なじみである森野が主人公のお話。
森野は18歳で両親を失って以降、稼業である葬儀屋を継いでいますが、葬儀という生と死を分かつ儀式をなりわいとしているが故に、やはり死というものが物語の中で大きな役割をもっています。



人は生まれおちたその瞬間から死に向かって着々と歩を進めていて、それを避けることは決してできません。

「誰もがいつかは死んでしまう」ということは誰でも知っていますが、でも死んだらどうなるのかなんてことは誰にも分かりません。これだけいろんなことができるようになった現代においても、死というのは直視したくないし積極的に関わりたくないけれど誰もが無関係でいられない絶対的なものとして君臨しているのです。


この2作は、そんな死という存在を丁寧に扱ったとてもよい作品でした。
死と向き合うことで生きる活力がわいてくる、そんな気がしました。



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