7つの贈り物


過去のある事件により、心に傷を抱えて生きる男、ベン・トーマス(ウィル・スミス)。彼は、ある計画をもって7人の見知らぬ他人を探し出し、自らの正体を明かさずに、彼らの人生を大きく変えていく…。彼の計画のためには、その7人でなければならない特別な理由があったのだ。トーマスの計画とは!? そして、その先にある彼の究極の目的とはいったい何なのか――? 感動作『幸せのちから』のガブリエル・ムッチーノ監督、ウィル・スミスが再びタッグを組み、男女の愛をロマンティックに描き出す。

『7つの贈り物』作品情報 | cinemacafe.net

TOHOシネマズ宇都宮にて。ウィル・スミスの新作。
自らの持つものを他人に与え、その他人の人生を変えようという一人の男の物語なのですが、観終わってとてもやるせない気持ちで劇場を後にしました。内容にあまり触れたくないのでぼんやりと書きますが、彼のとった行動そのものの是非は置いておくとしてもその行動の動機を知ったときにとてもやるせない気持ちしか沸いてきませんでした。自分が彼の立場だとしたらいったいどのような行動に出たのかということにはいささか興味がありますが、でもあまり積極的に考えたくない種類のことでもあり、そのことについて考えるだけで気が滅入ってきます。
出来るだけその日が訪れないような努力はしつつ、それでも万が一将来わたしがこのような立場に立つことがあれば、ぜひこの作品のことを思い出して比べてみようと思ったりしました。
捕らえ方次第で見え方が大きく異なるというか、見方によって楽しめたり許せなかったりする不思議な作品でした。最初は憤慨しながら観ていたのですが、観終わって繰り返し考えているうちにベンの行動理由が理解できて、さらにそれについていろいろと考えているうちにこの作品を面白いと感じられるようになっていました。
とても重苦しい気分にはなりましたが、いい作品でした。よかったです。


内容に触れないと何も書けなくてつまらないので以降はネタバレ含めてまとめます。
これから観ようという方は読まないことをお奨めします。


まず作品の内容について簡単にまとめますが、ベンは自らが運転中にメールを見ていたことに端を発した事故で7人もの犠牲者を出してしまったことをひどく後悔していました。冒頭の7秒で人生を変えたとはそのことです。
失われた7人の人生を取り戻す代わりに、自身で善き人を7人選び、その人の人生を変えて救おうということを彼は思いつくのです。ある人には自らの臓器の一部を与え、ある人には自らの持つ家を与え、最終的には自らの心臓も他人に与えたのです。


鑑賞している時にはベンのとった行動は自身が犯してしまった罪に対する贖罪なのだろうと思ったのですが、観終わって改めて考えてみると、贖罪というのも何となく違うかなという気がしてきます。生きている以上は他人の人生と交わらずに日々を過ごすことは不可能ですが、それでも意図的に深入りしてその人の生きる方向を変えようという行為には何となく抵抗を覚えますし、「本当にそれが善行なの?」と私には疑問に感じられてなりませんでした。
こんなことを書くと「その人の人生を良くするような変化だったらいいことじゃないか」と非難ごうごう間違いなしなのですが、それでもわたしは他人の人生に意図的に介入してそれをコントロールすることに対して非常に抵抗を感じてしまうのです。


それでも、わたしがこの作品がすばらしい作品だと感じてしまうのは、ベンが自らの最後を自身でデザインしていたことに非常に感銘を受けたからです。彼は自らの行為の結末までしっかりと計画していて、その結末が自らの死であることまで設計していました。自身に役割を与え、その引き際までデザインしていたことにとても惹かれたのです。


以前「経済ってそういうことだったのか会議」という本を読んだのですが、その中のExit Strategyという言葉に魅力を感じました。

わたしが一番感銘を受けたのはExit Strategyという概念です。

わたしの拙い経験からも引き際を見極めるというのは非常にむずかしいというのはわかりますし、だからこそ戦略的に進めようという発想がものすごく大事だと感じるのです。

経済ってそういうことだったのか会議 - 子持ちししゃもといっしょ

元々の意味は「自身の投資を最終的にどのように回収するのか」ということを表すようですが、物事の最終形についてしっかりと戦略を練って行動するというメタな視点でとらえれば、今回のベンの行動もまたこのExit Strategyと同じことを目的としているように考えられます。
上の方にも書いたとおり、わたしには彼の行動が善行とは思えないし、過剰に他人の人生に介入してきたおせっかいな人としかとらえられなかったけれど、でも、彼が彼自身で決めた最後を迎えるためにこれらの行動を取ったのだと考えるとすんなりと受け止められるのです。


ここまでのことをまとめると、わたし的には、彼は彼のために行動したのだと考えるとOKだけど、罪を償うとか他人の人生を豊かにするためにと考えるとNGということのようです。何でだろう...。


考えるのがめんどくさいのでとりあえず細かいことはおいておいて、注意一秒怪我一生とはよくいったもので、ちょっとした不注意が原因で人生がものすごく大きく変わる事例というのは世の中にゴロゴロ転がっていますが、この作品を観て、改めて自分がその立場とならないように細心の注意を払おうと心に決めたのでした。

公式サイトはこちら


[追記]
とてもよくまとめられた感想を読みました。
これを読んだら非常にすっきりしました。