- 作者: 湯本香樹実
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/06/30
- メディア: 文庫
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小学校を卒業した春休み、私は弟のテツと川原に放置されたバスで眠った──。大人たちのトラブル、自分もまた子供から大人に変わってゆくことへの戸惑いの中で、トモミは少しずつまだ見ぬ世界に足を踏み出してゆく。ガラクタ、野良猫たち、雷の音……ばらばらだったすべてが、いつかひとつでも欠けてはならないものになっていた。少女の揺れ動く季節を瑞々しく描いた珠玉の物語。
湯本香樹実 『春のオルガン』 | 新潮社
2年前に読んで以来、夏休みに読みたい本No1に輝き続けている「夏の庭」の著者である湯本さんですが、不思議と彼女の他の作品を読んでみようとはいままで思ったことがありませんでした。彼女の他の著書を読んでしまうことで、夏の庭というすばらしい作品を書いた人という印象を壊したくないと思うほどに、夏の庭というのはわたしの中でとても大きな作品でした。
ところが、先日本屋で物色していたときに偶然この「春のオルガン」を見つけてしまい、どうしても読みたくなってしまい、手にとってしまいました。そしてさらに横を見てみるとポプラの秋というまたしてもタイトル四季の入っている本を発見。やはり湯本さんの著書でした。冬もあるのかな...と探してみましたが見つけられず、ひとまず「春のオルガン」と「ポプラの秋」と「西日の町」を買うことにしました。著者でまとめ買いなんて初めてです。
期待半分、がっかりしてしまうかもという怖さ半分で読み始めた本書ですが、中学校へあがる直前の女の子「トモミ」の不安定で繊細な心理描写とそれを支える家族の存在の描き方がとてもあたたかく心地よくて一度も本を置くことなく読み終えてしまうほど熱心に読みふけってしまいました。大好きだった祖母の死の際に自分の中に生まれたおそろしい感情とそれを悩みとして抱え込んでしまう幼い優しさ。そしてそのことを責めるわけでもなく、自らの体験の一部を語ってくれる祖父の存在。そしていつも一緒にいてくれるテツ。
話として何かがうまくまとめるわけでもなく、ただすべてのことが過ごした分の時間として流れていき、それをトモミが時間をかけて受け止めていく様子がわたしはすごくいいなと感じました。
年度が変わる春は、学校だとクラス替えや席替え、会社だと異動でさまざまなことがリフレッシュされます。過去は過去として自分の中で区切りをつけ、また新しい生活に飛び込む春のイメージどおり、これから始まる何かに期待したくなる作品でした。
そしてもうひとつどうしても書き残しておきたいのは、この本が目に留まった理由です。
最初にこの本が目に留まった理由は著者が湯本さんだからではなく、表紙があまりに気に入ってしまったからです。この表紙を描かれているのは酒井駒子さんという方のようですが、表紙を見てハリセンで鼻の頭を叩かれるような衝撃を受けたのは初めてでした。そして、読み終わってから見直してみるとさらに感じる表紙の奥深い表現力。
そして偶然ですが、現在酒井さんは都内で4年ぶりに個展を開いているそうです。普段は絵などまったく興味がないのですが、こればかりはぜひ足を運んでみたいなと思います。
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