「紙の月」見たよ


バブル崩壊直後の1994年。わかば銀行の契約社員として働く、平凡な主婦・梅澤梨花。上司や顧客からの信頼も厚く、何不自由ない生活を送っているように見えた梨花だったが、自分への関心が薄い夫との間には見えない溝ができ始めていた。そんなある日、梨花は年下の大学生・光太と出会い、やがて2人は男女の関係になる。光太と過ごすうち、ついに顧客のお金に手をつけてしまう梨花。高価な買い物や高級な食事、ホテルのスイートでの連泊を重ねるうち、やがて金銭感覚と日常が少しずつ歪み出し、最初は1万円に過ぎなかった横領が、次第にエスカレートしていく…。

『紙の月』作品情報 | cinemacafe.net


地方銀行で営業としてまじめにはたらいていた女性が、客のお金を横領したあげくそのお金で若い男の子と遊びまわるというお話ですが、期待していた以上におもしろい作品でした。


本編を見る前に何度か予告を見たことがあったのですが、それを観たときは「どこにでもいる普通のひとが、ちょっと魔がさして悪事に手を染めたが最後どんどん堕ちてしまう」という話かと思っていました。ところがいざ観てみたらそうではなくて、幼いころから自分と他人のお金の区別が付けられなかった人が大人になってもその性癖を抑えきることができず、結局その欲求にしたがった行動をとっただけというのは意外でした。


この作品を観ていてすごくおもしろいなと思ったのは、この女性は横領したことをずっと隠し通す気がまったくなかったところです。

客のお金を横領しているわけですからばれてしまえばよくてもクビだし、ふつうに考えれば刑事告訴される案件ですから徹底的に隠し通そうとするはずなのに彼女はそこらへんに異様に無頓着なのです。たとえば2年満期の定期の預入を横領したとすれば、どんなに遅くとも2年経てばばれてしまうことはだれでもわかります。

ばれたら人生が終わるわけですから何とかバレないように帳簿を改ざんするとかお金を移動させておくとかするのかなと思って見ていたのですが、いつまで経ってもそこに対するケアがまったくなく、むしろ過去を振り返ることなくとにかく見境なくお金を集めることに執着している様子がすごく印象的でした。

結局バレてからも同じようなことをしようとしていたあたりからも、バレること自体はどうでもいいと思っていることがうかがえたのですが、なんでここまでなりふりかまわず突き進めたのか?と考えてみると旦那の存在が大きいんじゃないかなという結論に至りました。

彼女の旦那は大企業に勤めていて海外勤務を任されるほど優秀なひとなのですが、非常に無神経というか妻に対して関心をまったくもっていません。そのために夫婦生活は形ばかりで中身はまったくなく、それゆえに積み重ねた関係性がなにひとつ築かれていない、つまり妻にとっては帰る場所なんてそもそもないし、失うものすら何ひとつなかったがゆえにあそこまで大胆に罪を重ねていけたんだろうなと。

妻からペアの時計をプレゼントしてもらった直後に「安かったから」という理由で値の張る時計をプレゼントし返すところや、彼女と会話をしている途中であっても彼が興味をうしなったその瞬間にすぐにその場を放棄してそそくさと自分のやりたいことを始めてしまうところなんかがわかりやすいのですが、とにかく相手がどう思っていようが関係ないし興味もなく、ただ空気のように必要なときだけ一方的に搾取する/される関係に妻はもううんざりしていたんじゃないのかなと思うわけです。


もちろん罪を犯したのは旦那がぜんぶ悪い!というわけではありませんが、好きの反対は無関心という言葉の意味についてあらためて思い知らされる作品でした。



@MOVIX宇都宮で鑑賞


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