「そこのみにて光り輝く」見たよ


ある出来事が原因で仕事をやめた佐藤達夫は、毎日何をするでもなくぶらぶらと過ごしていた。そんなとき、粗暴だが人懐こい青年・大城拓児と知り合う。ついてくるよう案内された先は、取り残されたように存在している一軒のバラック。そこには寝たきりの父親と、父親の世話に追われる母親、そして姉の千夏がいた。世間から蔑まされたその場所で、一点のみ「光輝く」千夏に心惹かれる達夫。やがて、戸惑いながらも強く惹かれ合っていく二人は太陽の照りつける海で愛を確かめあう。しかし、千夏は逃れられない非情な現実を抱えていた…。千夏のすべてを知り、達夫が選んだ道とは――。

『そこのみにて光輝く』作品情報 | cinemacafe.net


日がなブラブラと何をするでもなく過ごしていたある青年が、ぐうぜん出会った青年と仲良くなったことをきっかけにある女性と出会い惹かれるという話でしたが、生きることってこんなに重かったんだな...とあらためて実感させられる重い作品でした。


「貧しいとはどういうことか?」というと、生活のどこにも余裕をもてないということであり、では「余裕をもてないというのがどういうことなのか?」というと、目の前にあることにしか対応できなくてひたすら原始的な欲求だけを満たそうとすることしかできないことであるとわたしは思います。


冒頭、池脇千鶴演じる千夏が客人である達夫(綾野剛)にチャーハンを作るシーンがあるのですが、彼女はチャーハンをフライパンに入れたまま取り分けることもせずドンと起き、千夏の弟である拓児(菅田君)がそのままスプーンを突っ込んで食べます。千夏や拓児のこの一連の行動は、ただ単にずぼらなだけなのかとも思ったのですが、衣食足りて礼節を知るという言葉が示すとおり「食欲を満たすという最低限のことしか頭にない」がゆえに、調理器具から皿に取り分けるという程度のことすらできないことを示していたことに気付きます。

そして別のシーンでは、ある人から1万円をもらった菅田君がそのお金で近所の寿司屋から出前を取ろうと言い出します。彼は少年院に入っていて仮出所中という身なのでお金はまったくないのですが、そのくせせっかくの臨時収入を後先考えずに目先の欲求で消費してしまう。その衝動的な行動にも貧しさがにじみ出ています。


本作でもっとも印象的なのは、まさにそんな貧しさまっただ中とも言える環境で生まれ育ち、不倫をすることで弟の仕事を得て、さらに体を売ってお金を稼ぐことで家族を養う千夏という女性の姿です。たいへん失礼な物言いになってしまうのですが、彼女を取り巻く家族や環境はこの世のどん底のさらにもっと奥底にある真っ暗な場所であるようにわたしには見えました。

娘が体を売ってお金を稼いでいることを何とも思わず、そのお金で生活の糧を得ていることにも一切の違和感をおぼえないような家族。
そんな家族をいままでも、そしてこれからも身を削って支え続けなければならないという事実。

過去にも未来にも何の展望もよい思い出もないような環境に身を置きながらも決しておかしな方向にこじらせることなく、ただただまっすぐ前を向いて生きようとしている千夏の姿は、こういうひどい環境だからこそよけいに輝いて見えるのです。


以前、誰かが「池脇千鶴は日本の宝だ」と言ったそうですが、この作品を観てその言葉の正しさをつよく実感しました。
こんなすばらしい演技ができるのは彼女しかいません。


@MOVIX宇都宮で鑑賞


公式サイトはこちら