「指輪をはめたい」見たよ


前の彼女にフられてから、30歳前に結婚して見返してやると誓った製薬会社の営業マン・片山輝彦(山田孝之)。誕生日が近づき給料3か月分の指輪も買ったものの、スケートリンクで転んで頭を強く打ち、記憶を失ってしまう。誰にプロポーズしようとしていたのかわからなくなってしまった彼の前に、全くタイプの違う3人の女性が彼女だと言って現れた。会社の先輩でクールで完璧な才女、智恵(小西真奈美)に、風俗店に勤めるセクシーでサバサバとしためぐみ(真木よう子)、そして公園で人形劇屋台をしている清楚で控えめな和歌子(池脇千鶴)。どうにか本当の相手を思い出そうとする輝彦は、あの手この手で3人の女性から自分との恋人生活を聞き出すのだが…。

『指輪をはめたい』作品情報 | cinemacafe.net

(注意)
本エントリーはネタバレありで書いてますので未見の方はご注意ください。


フォーラム那須塩原で観てきました。


記憶を失ってしまった男性の手元に残された婚約指輪。
ところが当然指輪はひとつしかないのに付き合っている女性は3人いることが分かり、記憶を無くす前はいったい誰に指輪を上げるつもりだったのか思い出せなくて....という状況から物語が始まります。当初、この設定を聞いた時には「たとえ記憶が無かったとしても自分の嗜好や感性に従えば誰に指輪を渡そうと思っていたのかすぐわかるだろ...」と思っていました。

特に本作に出てくる3人の女性は「研究職に就いてバリバリ仕事をこなす才女」と「メルヘン系風俗*1で働くセクシーな女性」、そして「人形も物語も自作して公園で自主上映している変わり者なんだけど、どことなく守りたくなる女性」というかなり個性的な3人なので、容姿も含めた自分自身の好き嫌いと照らし合わせればすぐに誰に指輪をあげようと思っていたのかという結論は出ると思っていましたし、主人公の片山も同じように考えていました。

でもそんな考えは甘い!ということを本作はグイッと突きつけてくれまして、そもそも「外見が好みからは外れておらず、さらに自分に強い好意を示す異性が複数いた場合に、その中から誰か一人を選んだりその相手に対する気持ちに優劣をつけるというのは難しい」ということをものの見事に納得させてくれました。

そもそもそれが簡単に出来るとしたら、それは初めから自分の好き嫌いがあった場合だけで、相手からの好意が先にあった場合はすごく選びにくいと思いますし、そもそも優柔不断のかたまりみたいなわたしには無理です。わたしも片山みたいに結局決められないだろうなーとしみじみと共感をおぼえていました。


もちろん今はもう結婚してるので全然こんなことないですけどね!!*2


さて。
そんな共感をおぼえる内容もありつつ、本作は全編にわたって観ている瞬間は現実の出来事なのか妄想の中の出来事なのか区別しかねるシーンで構成されていて、その虚実が定かではない出来事の積み重ねで作品が作り上げられていることがとても不思議な世界観を生み出していました。
例えば「これは絶対に妄想だろ....」と思うようなシーンであっても、明確にそのことが現実ではないと主張されることはありません。そうなると、逆に当たり前の出来事のように描かれているシーンであっても果たしてこれは本当に現実なんだろうか?と疑問をもつようになってしまい、だんだんとその境目が分からなくなってしまったのです。

結局これは片山の観ていた事実をすべて現実のものとして描いた結果であることが、最後の方に分かるのですが、そのすべてがクリアになった瞬間のすっきりする感じというか、霧が晴れたときの気持ちよさというのはとてもよかったです。

人間が自分の記憶の中に隠し込んでしまった思い出というのは決して消えるわけではなく、単にリンク切れの状態になって押し込められているだけであり、そういった抑圧された感情というのはむしろ理性などがはたらなかい状況に陥った時にはまっさきに顔をのぞかせる一面があることにいまさらながら思い至らされたのでした。

片山がエミちゃんに執着してしまう気持ち、そしてそのことが忘れられないということのもの悲しさ。後半はとにかく観ていて悲しくなることが多かったのですが、観終わった後に残されたのはそこから次へ進もうという前向きな気持ちでしてとても良い気分で劇場をあとにしました。


ちなみにエミちゃん役は先日観た「ヒミズ」での茶沢さん役がとても印象的だった二階堂ふみさんでしたが、この作品における彼女のかわいさは国宝級と言っても言い過ぎではないというか、やっぱり言い過ぎな気もしてきたので撤回しますが、でも本当にかわいかったです。



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*1:ちなみに店名は「メルヘン風俗モンデルセン」という名前でして思わず盛大に吹いてしまいましたw

*2:と書いておかないとまたいろんな人にいろいろと言われそうなので書いておきます