「オール・ユー・ニード・イズ・キル」見たよ


近未来の地球。侵略者の激しい攻撃に、人類の軍事力ではもはや太刀打ちできなくなっていた。対侵略者の任務に就いたウィリアム・ケイジ少佐(トム・クルーズ)は、戦闘によって亡くなる。しかし、タイムループの世界にとらわれ、戦闘と死を繰り返す。そんな中、特殊部隊の軍人リタ・ヴラタスキ(エミリー・ブラント)と出会ったケイジは、彼女と一緒に何度も戦闘と死を繰り返しながら戦闘技術を向上させ……。

オール・ユー・ニード・イズ・キル (2014) - シネマトゥデイ


(注意) 本エントリーは物語の内容に触れている部分があるので未見の方はご注意ください。


原作は未読ですがヤンジャンに連載されていたマンガは読んでいたので話の筋は知ったうえで鑑賞してきました。
マンガが原作をほぼ忠実に再現していた(らしい)のに対して、本作は原作に忠実な映像化というわけではなく設定や舞台といったエッセンスをベースに大きく再構成しています。原作に思い入れが無く、かつ、マンガもさほどおもしろいとは思えず好きになれなかったためか映画の方はとてもおもしろくて最後まで飽きずに鑑賞できました。原作との違いを気にする人はともかく、それ以外の人であればまずまちがいなく楽しめるエンターテイメント作品だと思います。


本作は「死ぬとある日の朝に時間が戻ってしまう」というループしている世界に迷い込んでしまったトムがそのループから抜け出すべくハッスルするというお話。戦地での経験などまったくないトムが、なぜか前線に駆り出されてしまって勝ち目などまったくない圧倒的に不利な戦いに挑む羽目になるのですが、そこで死ぬとまたその戦いの直前まで時間が戻ってしまうのです。

敵はたいへん強いうえに大量に存在しているのでひ弱なトムはあっという間に死んでしまうのですが、すると前日の朝に時間が戻り同じことが繰り返されることになるのです。

ループが始まった当初は「死への恐怖」が先立っていたものの、何度死んでも結局は朝に戻るだけという状況が続くと今度は「死ぬことができないことへの恐怖」がわきあがってきます。わたしにとって、死というのはこの世と自分のつながりを断ち切る完全なリセット手段として人に与えられている最後の手段であると理解していたのですが、それが有効にはたらかないとなると今度はそのことに恐怖をおぼえるのです。

仏教には輪廻という考え方があって、死んだら別の生き物として生まれ変わり続けるサイクルがあると信じられているそうですがまさにそのミニバージョンとも言うべき状況を再現したものがこの作品で描かれている状況なのです。というかこれって完全に輪廻を意識してますよね。


最初は弱くてあっという間に死んでいたトムも、同じ世界を何度も繰り返すうちにどんどん強くなっていって戦場でもものすごい活躍を見せるようになります。死んだらまた以前に戻るので肉体的な強さはリセットされるのですが、戦った記憶や敵のパターンはじょじょに記憶していくことで個体としては死ぬたびに強くなっていくわけです。

このトムが強くなっていく過程がすごく楽しくて、まるで高難易度のミッションを何度も死になが攻略パターンをおぼえてクリアして「デモンズソウル」や「DARK SOULS」といったゲームを思い出しました。

DARK SOULS with ARTORIAS OF THE ABYSS EDITION (特典なし) - PS3

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死んでパターンをおぼえるという意味ではシューティングゲームやアクションゲームもこれに近いと思うのですが、そういったゲーム的な要素と「戦いで死ぬ→生き返る→前より先に進む→死ぬ→生き返る→前より...」という繰り返しのテンポのよさがすごくマッチしていてよかったです。



そしておそらくここがこの作品一番の成功要因だと思うのですが、トムは作中で何度も何度も死ぬわけですがそのひとつひとつの死があまり重く描かれていなかったのがよかったんじゃないかなと。まるでゲームをリセットしてセーブデータを読み込みなおすように死を選ぶ*1
もしひとつひとつの死をリアルに、重苦しく描いたとしたらとても最後まで観ていられなかっただろうなと思います。

この描写に対して「死そのものを軽く扱っている」という批判もあったようですが、そういうことではなくてループする世界においては一度の死などこんなに軽いんだということを的確に表していてよかったんじゃないかなとわたしは感じました。


死ぬことができないことの苦しさを理解するのであれば、乙一さんの「失はれる物語」を読むのが一番よいと思います。


失はれる物語 (角川文庫)

失はれる物語 (角川文庫)



死ぬことよりも怖いことが身近にあるとをこの本から学びましたが、ほんと何度読んでも息苦しくなります。


@MOVIX宇都宮で鑑賞


公式サイトはこちら

*1:エミリー・ブラントに無理やり死を選ばされているときもたくさんありましたが