「星の旅人たち」見たよ


アメリカ人眼科医のトムは、一人息子・ダニエルの突然の訃報に途方に暮れる。サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼の初日、嵐に巻き込まれ不慮の死を遂げたのだ。息子の遺灰を受け取り帰国する途中、悲しみに襲われたトムは予定を変更し、遺されたバックパックを背に息子の果たせなかった巡礼の旅に出る――。

『星の旅人たち』作品情報 | cinemacafe.net

宇都宮ヒカリ座で観てきました。


本作は聖地巡礼の旅の途中で命を落とした息子の代わりに旅に出た父親の姿を描いたロードムービーでしたが、2012年に観た中でも指折りのすばらしい傑作でした。息子が命を落とした旅を自らが引き継いで旅を続けるというシチュエーションがたいへんよくて、その意図や息子への想いに思いをめぐらせずにはいられませんでした。


映画化もされているので知っている方も多いかも知れませんが、ずいぶん前に話題になったドラマで「アンフェア」という作品があります。



篠原涼子さん演じる雪平は警視庁捜査一課で検挙率ナンバーワンという敏腕なのですが、そんな彼女がさまざまな事件を解決していくというお話です。個人的に映画はいまいちでしたが、ドラマはすごくおもしろくてとても大好きなシリーズでした。


この作品でいちばん印象的なのは、雪平は発見現場で必ず被害者が発見されたときと同じ体勢になってみるという設定です。

雪平は殺人事件解決のカギを得るために、死者が最後に見た風景を見ようとします。つまり死体が発見されたときと同じ状態になってその視界に入るモノをヒントとして得ようとするのです。最初にこのシーンを見た時は「死体があった場所で同じ体勢になってみるなんて!と」ギョッとしたのですが、でも冷静に考えると死んでしまって何も言葉を発することができない相手から何か情報を得ようと思ったら「相手が見ていた風景を見てみよう」というのはわりと合理的な考えだと思いをあらためました。


どんなことであっても、相手のことを知りたいと思ったらまずは相手の立場に立って考えてみるというのがとても大事です。


本作で、トムは息子がなぜ巡礼の旅に出たのかを知りたいと思うわけですが、普段から息子と睦まじく言葉を交わしていたわけではないのでその本意がまったく分からず、そのことがトムを苦しめます。もともと価値観を異とするところの多い二人だったのですが、だからこそ息子が歩こうとした道を歩くことで息子の考えを知りたいと考えたんだろうなと思ったし、親が子を想う気持ちとしてはすごく分かるなと感じたしグッときました。


さらに本作をすばらしいと感じたのはその旅がトム自身にとってもかけがえない旅になっているという点です。

 大事な息子を失って自らの人間関係に大きな穴をあけてしまったトムが、この旅をとおしてあらたな友だちを見つけて人生を共に歩む仲間を得ていき、その仲間といっしょに歩くことでその仲をどんどん深めていくのです。辛い喪失が次の大事な出会いにつながるという展開はすごくステキだと思うし、何よりも長い道のりを誰かといっしょに歩くという行為の魅力が余すことなく描かれていたように感じました。


「長い距離をいっしょに歩くことでその中が深まる」というのはわたしのすごく好きな演出でして、たとえば恩田陸さんの「夜のピクニック」や「まひるの月をおいかけて」がそのような代表的な作品です。
本作もまた見知らぬ人といっしょに歩くことでその仲をふかめていく作品でして、そのプロセスがまたとても丁寧でつい感情移入してしまいます。


巡礼の旅で訪れる街の風景はとかく美しく、その土地その土地の人々との関わり合いもすごくリアリティがあって観ていて楽しく感じました。とくに全員が全員いい人ばかりではないというところなんかはとても生々しくてよかったです。


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