横道世之介(高良健吾)は、長崎の港町生まれ。大学進学のために上京したばかりの18歳。嫌みのない図々しさを持つが、人の頼みは断れないお人好し。世之介に起こったある出来事から呼び覚まされた、愛しい日々と優しい記憶の数々。ガールフレンドの与謝野祥子(吉高由里子)のこと、世之介のまわりの人々のこと、青春時代と彼らのその後。さらにその後が描かれる。
『横道世之介』作品情報 | cinemacafe.net
TOHOシネマズ宇都宮で観てきました。
予告がとても微妙だったので観る前から「これは誰が観るんだろう」とか「これは地雷じゃないか」などと思っていたのですが、監督が「南極料理人」を撮られた沖田監督だということを知り、まずは一度観てみようと勢い込んで観てきました。じつは本作は上映時間が160分とかなり長尺な作品でして、実はそこも観る前から気になっていたところでしたが、観終わえた瞬間に「え?もうおしまい?」と思わず口をついてしまうほど、観ている時間があっという間に感じました。
期待をはるかにうわまわる内容でして、あまりの良さに観終えてしばらくは作品の世界から抜け出せず立ち上がることもできずボーっとしてしまうほどでした。まだ2013年も始まったばかりですが、今年観た邦画の中では「渾身」と同じかそれ以上に大好きな作品ですし、とにかく図抜けてすばらしい作品でした。
わたしは冒頭の世之介が新宿に降り立ったシーンからカメラを手にして走り回りながら写真を撮る最後のシーンまで、すべてのシーンが好きで好きでたまらないくらいとても気に入ったのですが、じゃあ具体的にどういう理由で好きなのか?どういうところに惹かれたのか?と聞かれるとこれだという言葉が出てきません。
観ただけでこんなに幸せな気持ちになれるのに、この映画のことがすごく好きだと思っているのに、その理由を言葉にしようとするとどの言葉も自分のこの気持ちをうまく表現できないのです。好きを言葉にできないことは初めてではありませんが、ここまでもどかしく感じるくらいに何も表現できないこともめずらしいです。映画を観た帰り道はずっとこの作品のよかった点を言葉に置き換えたくてそればかり考えながら帰ってきました。
わたしがいつも心にとどめている大事な言葉のひとつに「人は二度死ぬ」という言葉があります(もちろん007のタイトルではありません)。
とても有名な言葉なので知っている人も多いと思いますが、この言葉の意味は"一度目の死は肉体が死んだとき"で"二度目の死はすべての人から忘れ去られて誰も思い出してくれなくなったとき"です。おそらく小学生くらいのときに同居していた祖母から教えてもらったのだと思うのですが、そのときは自分が死んでしまったらたとえ誰かからおぼえられていようと全員に忘れられていようと関係ないじゃんと思ったと記憶しています。
でもあれから20年以上の年を重ねたあらためてこの言葉を反芻してみて感じるのは、一度目の死よりも二度目の死の方がさみしいということです。
人間としてその寿命をまっとうして死を迎えることは生命である以上しょうがないと割り切れるのですが、死んだあとに誰も自分が生きていたことをおぼえておらず思い出してもらえないというのは、自分の生き方が間違っていたと否定されているような苦々しさを感じてしまい受け入れられないのです。
いずれ同年代を生きた人たちも亡くなるわけですから誰だっていずれ二度目の死を迎えることから逃れられないんですけどね...。
わたしが世之介を観てうらやましいと感じたのは、おそらく彼は死んだあとにもいろんな人から思い出してもらえる人だったからです。ふいに「あいつ、なにしてるかな?」と思い出してもらったり、「そういえばおもしろいやつがいてさ」なんてちょっとした話題にあげてもらったりというのがすごくうらやましかったのです。そしてそれは逆にいえば自分は世之介のような生き方をしていない、というか彼のようには振る舞えないし、だから彼のように亡きあとに思い出してもらうことはないだろうなということを日々痛感しているからなのです。
世之介は空気がまったく読めなくてイラッとさせるような発言や行動も多いのですが、でもいつも自分の気持ちや考えにすごくまっすぐでそこには自分をよく見せたいという計算・打算はいっさい感じられません。その隙だらけの彼に人は警戒心を解いて心を許してしまうし、彼と関わった人たちが彼の一挙手一投足に惹かれてしまう気持ちはすごくよくわかります。
多くの人に愛された世之介が過ごした青春の日々はあまりにまぶしくて、あまりに暖かくて、でもわりとどうでもいいこともすごく多くて、その普通さがとにかく愛しくてしょうがありませんでした。大学中退、就職といったきっかけでお互いに違う道を歩き出して別の場所で生活を送る人たちが、10年以上も経ったある日ふと思い出して笑ってくれる世之介のような人にわたしはなりたかったんだろうと思います。
そういえばいままで吉高由里子が好きじゃないと公言してきましたが、この作品の彼女はとてもよかったです。
病室で名前を呼び合うシーンを観ながら泣きました。
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