「世界にひとつのプレイブック」見たよ


妻の浮気が原因で心のバランスを崩したパットは、家も仕事も妻も、すべてを失くしてしまう。いまは実家で両親と暮らしながら、社会復帰を目指してリハビリ中だ。何とか妻とヨリを戻したいパットは、彼女の理想の夫になろうと努力するが、妻は接近禁止命令を解いてくれない。そんなとき近所に住むティファニーに出会う。愛らしい姿からは想像もつかない、過激な発言と突飛な行動を繰り出す彼女に振り回されるパット。実は彼女も事故で夫を亡くし、心に傷を抱えていた。ティファニーは立ち直るためにダンスコンテストへの出場を決意。パットを強引にパートナーに任命する。人生の希望の光を取り戻すための、ふたりの挑戦が始まった──。

『世界にひとつのプレイブック』作品情報 | cinemacafe.net

TOHOシネマズ宇都宮で観てきました。

妻に浮気をされて躁うつ病になって病院で入院生活を送っていた男性が、家族や友だちにささえられながらあらたな一歩を踏み出すという物語でしたが、文章で読むと非常にハートフルにも読めるあらすじとは対照的に救いようのないくらいダメな人たちばかりが出てくるストレスフルな作品でして冒頭からしばらくはイライラしながら鑑賞しました。

明らかに躁うつ病の症状がまだよくなっていないのに病院からパッドを連れ出す母。
自分の店を持つためにノミ屋をしている病的なほどのアメフト狂の父。
そして妻から接近禁止命令が出るほど嫌われていてストーカー扱いされているにも関わらず、誤解を解けばよりを戻せるとなぜか信じ切って行動しているパッド。


パッドの家族は全体的に最低で、観ながら何度も「ああ、これはもう観ていられない...」とうんざりしました。

とくにパッドの素行はあまりにひどくて、セラピーを受けに行けばかかっている音楽が気に入らないと暴れるし、夜中に家族をたたき起こして大騒ぎしたあげく警察に通報されたりとあきらかにまともとは言えない状況なのです。もう病院に戻すしかないじゃん、これ...。


さらに物語が進んで本作のヒロインであるティファニーが出てきても状況は一向に改善しません。

好意的な態度で接してくるティファニーに対して心ない言葉を投げかけたり、自分の手紙を妻に渡すために利用しようとしたりとパッドは相変わらず自分勝手な態度で周囲に接し続けるのです。


パッドもパッドの父さんもいい加減に頭冷やしてまともになれよ...とうんざりしながらそう思ったそのとき、そもそも人はそう簡単には変われるのか?という疑問が頭によぎりました。そしてすぐに「人はすぐには変われない」という当たり前の結論を思い出したのです。


そうなんです。

人は外からの圧力ではなかなか変わることはできません。それこそ命にかかわるような状況にでもならなければ、おそらくどんなことをされようがその人の本質というのは絶対に変わりません。人が変わるときは自分から変わりたいと願って行動にうつしたときだけであり、そうでなければ人は変わることができないのです。


そう考えると徹底的にダメなまま変わらないパッドたちの姿というのは、とくにおかしなものではないことに気づきます。
最愛の妻が浮気をしていたわけですからパッドの受けたショックの大きさは相当のものでしょうし、それを考慮すればパッドが事件から半年経ったいまも異常な状態になっていることもおかしなことではないし、パッドのような行動を取る人がいることももっと自然に受け入れるべきではないかと考えが変わっていったのです。

パッドに「はやくまともな人間に戻れよ」と思っていた自分はすごく傲慢だったなと。


そしてそんなふうに「人はなかなか変われない」という前提があるからこそ、変わるために努力して自分なりの幸せを見つけていけるようになるまで立ち直るそのがんばる姿がとてもすばらしく見えてきます。


本作は中盤から後半にかけて「がんばっても50点しかとれない人たち」を「50点でもいいじゃない」と肯定的に描きます。

50点というのは他人にからみたら合格点ではないかも知れないけれど、でも50点が自分たちが決めた合格点を超えていたならそれは素直によろこぶべきだと本作は教えてくれます。


世の中を見渡すと、自分が幸せかどうかということを「他人よりも幸せかどうか」とか「世間からみて幸せと言える部類に入るかどうか」といった相対的な基準で判断している人がわりと多いような気がします。たしかに比べた方がわかりやすいというのはそのとおりですが、でも他人と比べて幸せかどうかを判断しているとこれで十分幸せだというところを見つけられないという弊害があります。

どうしたって上には上がいますからね。結局自分よりも幸せそうに見える人を見つけてしまって、自分は不幸だと思い込むことになるのです。


「他人と比べるところから不幸が始まる」というのはわたしが好きな言葉なのですが、幸せかどうかという最終判断は"自分がそう思うかどうか"だけで決めるものだとわたしも思います。そして本作を観たことでその考えはより確固たるものへと変わりました。


世間体だとか過去だとかそういったものに縛られていたパッドが、自分にとっての幸せを自分の気持ちと照らし合わせて見つけていけるようになるプロセスがとてもすばらしかったですし、冒頭で感じていたイライラはウソのように消えて無くなって満たされた気分で観終えました。


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