「ブルージャスミン」見たよ


ニューヨーク・セレブリティ界の花と謳われたジャスミンは裕福でハンサムな実業家のハルと別れ、贅沢三昧だった結婚生活も資産もすべてを失う。庶民的なシングルマザーである妹ジンジャーを頼りにサンフランシスコを訪ねるジャスミンだったが、過去の栄華を忘れられず、華やかな世界の返り咲きを図るものの全てが空回り。そんなときに理想的なエリート外交官の独身男性ドワイトと巡りあい…。

『ブルージャスミン』作品情報 | cinemacafe.net


セレブ生活を謳歌していた女性ジャスミンが、ある理由からその生活を失ったために妹のもとに身を寄せて生活をするというお話でしたが、ジャスミンの「高過ぎる自意識」と「張りぼてであることが透けてみえる見栄」がひどすぎて終始いたたまれない気分になりながら鑑賞しました。そこそこ年齢のいった自意識過剰な女性の痛さを描いた作品という点では「ヤング≒アダルト」と似ている部分もありますが、個人的にメイビスよりもジャスミンの方がより理解がおよぶ余地があった分、観ていてしんどかったです。

ジャスミンがあまりにひど過ぎて途中からもう笑うしかなくなるんですけどね...。


この作品を観ていてひとつ気になったのが、ジャスミンがたびたび「ブルームーン」という曲について言及していた点です。

たとえば、セレブたちとパーティーをしている最中にこの曲が流れるとふと気づいたように「あら、この曲は私たちが出会ったときに流れていた曲ね」なんて感じでジャスミンは旦那のハルに話しかけるのですが、それと似たようなやり取りが作中で何度かくりかえされたために「この曲は何かあるのかな?」なんてすごく気になったのです。


で、この「ブルームーン」という曲の歌詞を調べてみたのですが、歌詞を読めば読むほど彼女の本音がこの歌に込められているんじゃないかという気がしました。

ブルームーン
あなたは一人ぼっちで立っている私を見ていた
心に描く夢もなくて
愛する人もいない
ブルームーン
あなたは何のために私がそこにいるのかちゃんと分っていたのですね
あなたは私のお祈りが何を言ってたのか聞いていたのですね
私が誰かを本当に大切にしたいということ


それから突然私の前に現れた
私がいつまでも抱きしめておきたいたった一人のひとが
私は誰かがのささやきのを聞いた「どうか私を大事にして。」と
そしたら、お月さまが金色に変わっていた


ブルームーン
今はもう一人じゃないんだ
心に描く夢もなくて
愛する人もいないような

ブルームーン:Blue Moon [歌詞と和訳] – マジックトレイン・ブログ


結局のところ、彼女はこの曲で歌われているように夢のような幸せな生活がひょいと転がり込んできてほしいと願っているのです。

当然そういった「棚からぼた餅」みたいなかたちで幸せを手にしたいという想いを抱えている人は世の中にたくさんいるのでしょうが、彼女はその欲求が他の人よりもひじょうに強い一方で、そういったよりよい生活を得るために自分が努力をするという考えは一切ないこともうかがえます。

自分がそういう生活を作り上げるのではなく、誰かがふっと現れて幸せにしてくれたらいいなというだけなんです。

一度聴いていただくとわかりますが、この曲自体はすごくいい曲ですし何度も聴きたくなる名曲だと思いますが、ジャスミンのような欲求のかたまりがこの歌を歌っている姿を想像するとあまりにグロテスクでシャレになりません。あそこまで欲求がむき出しになると気持ち悪いですよね...。


さて。

ブルームーンの歌に込められた彼女の気持ちは分かったのですが、じゃあ名前をなぜジャスミンにしたのか?というところがはっきりしませんでした。ジャスミンという名前は響きがよくてかわいいからというだけでも十分といえば十分な理由ですが、なにかないかな?と考えていたところ、同じ日に観た映画「百瀬、こっちむいて。」で出てきた花言葉というキーワードが引っかかりました。


「百瀬、こっちむいて。」の話はまた書くとして(ちなみにこちらも超おもしろかったのでおすすめです)、ジャスミン花言葉って何だろう?と調べてみると「素直」「無邪気」「可憐」「優美」「温情」「気だてのよさ」「愛の通夜」「官能的」「愛らしさ」と女性としての魅力に直結するものが多いことがわかりました。男性から愛され、大事にされたいと願った彼女がこの名前に執着する気持ちにぴったりです。

さらに調べてみておもしろいなと思ったのは、ジャスミンは花の色が黄色の場合にだけ別の花言葉があるという点。「優雅」「恩恵と優美」「私はあなたのもの」が黄色のジャスミン花言葉です。なんとなく彼女がこうありたいと願う姿に近いような気がするのですが、そういえばジャスミンは黄色の洋服を着ていたシーンが多かった気もするのでやはり花言葉は意識しているんじゃないかなと思いました。


そんなこんなで自己愛の塊のようでうっとうしいジャスミンですが、率直に言ってわたしは彼女のことを嫌いだとは思いませんでした。

もちろん好きじゃないし近くにいたら面倒だなと思うけど、なんか彼女の欲求の源泉みたいなものは理解できるし、彼女は極端すぎるけどこういう人がいることはわかるんです。

むしろ、わたしがこの作品で一番嫌いだと思ったのは妹のジンジャーみたいな人です。

彼女の直情的で思慮の足りないバカ丸出しの行動・発言は見ているだけでほんと腹が立つし、ジャスミンがいうとおりどうしようもない男にすぐ引っかかるしょうもないところにもイライラします。

そもそもジャスミンたちがジンジャー夫妻をだまして大事なお金を溶かしたみたいなことを言っていましたが、あの話に一番乗り気だったのってジンジャーなんですよね。旦那は手堅く自分のビジネスに投資するつもりだったのに、ジンジャーが妙な欲をだしてジャスミンたちに預けようなんて話にホイホイのっかったのがよくないのは明らかです。

そのくせ、ジャスミンたちが自分たちをだましたなんて被害者面をしているところにわたしはものすごく苛立ちをおぼえました。
こういう人、大嫌いです。


ただ、ジャスミンみたいにかなうかどうかわからないレベルの夢を思い描いてそれを誰かが叶えてくれるのを願うだけの人よりも、ジンジャーのような自分がそこそこいいなと思える相手と付き合ってその場その場を楽しく過ごす人の方が幸せなんだろうなというのはすごく伝わってきました。


MOVIX宇都宮で鑑賞


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