OL2年目で会社を辞めた芽衣子(宮崎あおい)。音楽への夢をあきらめきれないフリーターの種田(高良健吾)。不確かな未来に不安を抱えながら、お互いに寄り添い、東京の片隅で暮らすふたり。だが、芽衣子の一言で、種田はあきらめかけた想いを繋ぐ。ある想いを込めて、仲間たちと「ソラニン」という曲を書き上げた種田。ふたりはその曲をレコード会社に持ち込むが…。不確かな未来に揺れながらも、新しい一歩を踏み出していく若者たちを描き、絶大な人気を博した浅野いにおの傑作コミック「ソラニン」を映画化。主人公・井上芽衣子を宮崎あおい、恋人の種田を高良健吾が演じる。
『ソラニン』作品情報 | cinemacafe.net
新宿ピカデリーにて。初日初回を鑑賞。
時期的なものなのかネットでは就職や就職活動に関する話題をよく目にします。
就職するということ、つまり高校や大学を卒業したら社会に出て働くということは憲法に定められている労働の義務を果たすため...というほど大層なものではなく、単に日々を生きていくための糧を得る手段としてもっともスタンダードなものだからだと言えます。今の世の中、お金がなかったら暮らしていけませんし、かといって自分だけの力でお金を得ることはとても難しいことです。ですから安定した収入を得るために会社に入って働き、そこで対価を得て生計をたてようというのはごく自然な考えです。
では就職するとしてどういう職種や会社を選ぶのかというところに話が進んだところで多くの人があたまを悩ませます。
自分は何ができるのか?
自分のやりたいことってなに?
あれこれ悩みながら自分のできることとニーズをぶつけて自分に適した職業について思索をめぐらせます。
子どもが好きだから保育士、弁が立つから営業職、プログラムを作るのが好きだからプログラマー、映像制作をやってみたいからテレビ局員、安定したところがいいから公務員、お金をがっつり稼ぎたいから外資の金融系社員...etc。
そうやってたくさんの可能性の中からこれがいいという仕事や会社を見つけるのですが、このときに「やりたいこと」を優先して選ぼうとすることを極端にタブー視する人がいます。実はわたしもそういう人と会った経験がありまして、当時わたしはプログラムを書くのが好きだったのでプログラマーを志望していたのですが、そのことをバイト先のおっさんに話したら「やりたいことをやって食っていけると思うな」という助言をされたのです。もう9年も前のことなので一字一句はおぼえていませんが、社会に出てお金をもらうというのはすごく大変なことなんだから好きなことをやっていけるなんて考えが甘い的なことを言われました。当時のわたしはとても素直な好青年でしたので、その発言に反発することなく「そうですよね」と同意してしまったわけで*1、そのときの心境を思い出してみるに少なからず自分自身の中にも「好きなことでは食っていけない」という価値観が存在していたんだろうと推測できます。
本作「ソラニン」は自分の生き方や行く先に悩む若者たちの等身大の姿をとても鮮明に描いた作品です。
嫌々続けていたOLをふとしたきっかけで辞めてしまう芽衣子。
大学を卒業しても就職せずにアルバイトをしながらゆるく音楽を続けている種田。
わたしから見たらこのシチュエーションだけでも十分将来に不安をおぼえるのですが、芽衣子に「仕事を辞めても何とかするから」と何の考えもないくせに口にする種田のいい加減さや、あわやメジャーデビューできそうなチャンスがおとずれたのに理想にこだわってその機会を不意にしてしまう芽衣子の甘さを目の当たりにしてしまったわたしは「こんなことでこれから先どうするの?」という気持ちがわいてきたのです。
でもそう思うのと同時に、どんなに未来に光が見えなくて悩んだり将来にいてもたってもいられないほどの不安をおぼえながらも自分の気持ちに真摯に向き合っている二人の姿にものすごくしびれている自分に気付きました。こいつら立ち回りは下手だけどかっこいいなと思っちゃったんですよね。
いつまでも好きなことをやり続けたり夢をひたすら追いかけている人を「大人になれない人」と切り捨てるのは簡単だけど、でも逆に自分の気持ちに正直であり続けることの大変さを考えると決してそれが正しくないことだとは思えなくなってきたのです。むしろ自分の気持ちに適当に折り合いをつけて生きている方が誠実さに欠けるんじゃないかと思い始めているのです。
世間では「学生気分が抜ける」とか「大人になる」ということばかりが正しいことのように喧伝されているけれど、果たしてそれは本当にそうなのかということを観ながらずっと考えていました。
今の世の中では賢く立ち回ってつつがなく生きることがいいこととして評価されているけれど、どんなに大変でも自分の本心と向き合ってやりたいことを続けようとすることも本当にすごいことだと思うし、ひとりの人間の生き方としては後者の方が正しいんじゃないかと思わせるものがこの作品にはあったと感じています。
あとおまけみたいになってしまいますが、宮崎あおいの歌うライブシーンは本当によかったです。気持ちのこもった歌声と表情にとてもグッときました。
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