「悪夢のエレベーター」見たよ


急停止したエレベーターという、密室に閉じ込められた男女4人が繰り広げる笑いと恐怖のサスペンスコメディを描き、累計29万部を売り上げた木下半太原作の人気小説を映画化。構成作家としても活躍する堀部圭亮が初メガホンを取った。

『悪夢のエレベーター』作品情報 | cinemacafe.net

宇都宮ヒカリ座にて。


人は「嘘をついたり作り話をするときには、その中にいくばくかの真実を混ぜ込んでしまう」という話をなにかで読んだことがあります。
いったいどこで読んだのか思い出せないので詳しいことは覚えていないのですが、なぜそのようなことをするのかということをかんがえてみると以下のような効用があるからではないかと思うのです。

    1. 嘘と真実を同時に語ることで自分自身に真実であると思い込ませることができる
    2. 相手に嘘を本当のことであると信じ込ませやすくなる


1.については嘘をつく側の事情になるのですが、信憑性をもたせるためだといえます。
たとえば自信たっぷりに話す人と自信なさそうに話す人ではどちらの人の言葉を信じたくなるでしょうか?
あまりに自信に満ちすぎていると逆にうさんくさくなってしまってかえって信じられなくなるのでその点は注意したいところですが、基本的には自信をもって話している人の方が正しいことをいっているように見えるはずです。


これについて一例をあげるとすれば、いっぺんの迷いもなくジャパネットの高田社長を挙げます。
通販にぜんぜん興味がない人でも知らない人はいないほど有名な高田社長ですが、ひとはなぜジャパネットの番組を見て商品が欲しくなるかといえば、それはひとえに自信たっぷりに商品をすすめる高田社長を信用してしまうからなのです。高田社長が「自信をもっておすすめします!!」と叫べば、「これは信用できるな」と視聴者一同みな安心して電話に手を伸ばすことができるわけです。
もし高田社長が「これ、けっこう便利だと思いますよ(たぶん)」みたいな超弱気な口調でしか売り込めない人だったとしたら、まちがいなくジャパネットはここまで勢力を拡大できなかったはずであり、やはり高田社長のあの自信あふれるセールストークこそが非常に大事だったのだとわたしは断言したいのです。


話がちょっとずれてしまいましたが、相手に信じてもらうためには自信たっぷりに話す必要があるということはご理解いただけたと思いますが、それでは自信をもって話すために一番大事なことは何かとさらに深堀りしてみると、それは自分の発言にうしろめたさをもたないことだとわたしは思うのです。いま自分が話していることは絶対に間違っていないという自負こそが、自信に満ちた態度につながるのです。
とすると、逆に話している内容に嘘を混ぜ込んでしまうと、話し手はそれに対して「嘘をついている」といううしろめたさを感じて堂々と話せなくなってしまう可能性は容易に想像できます。もちろん嘘だと知っていてなお、それをつきとおせるつよい心の持ち主や、息を吐くように嘘をつけるナチュラルボーン嘘つきもいるのでしょうが、多くの人にはむずかしいことだと思います。


そんなとき、嘘をつきながらもそれをおくびにも出さずに話すコツというのが、最初の方で書いた「嘘の中にいくばくかの真実を混ぜ込む」という方法なのです。つまり、"嘘だけではなく真実も話しているんだ"と自分に言い聞かせることで「自分は嘘だけを言っているわけではない」→「自分は嘘を言っているわけではない」と思い込む方法なのです。
そんな馬鹿な...と思われるかもしれませんが、酸っぱいブドウの例にもあるとおり、自分で自分に言い訳をして納得するというのは珍しいことではないのです。


そして、このように真実を混ぜ込んで話すことが2.の「相手に嘘を本当のことであると信じ込ませやすくなる」につながるケースもあります。ここで注意したいのは「必ず信じてもらいやすくなる」わけではなくて、あくまで「そのようなケースにいたる場合もある」ということなのです。
では、いったいどのような場合に信じてもらいやすくなるのかと言えば、"本当の話"として話した部分が聞き手の既知の事実であった場合がそれに該当するのですが、その理由についてはまとめると長くなるので割愛します。
# ひとは結末が嘘の話はぜんぶ嘘だと受け止めやすいという話です


と、話はだいぶ長くなりましたが、ひとは嘘をつくときに嘘で塗り固めるようなことはあまりせず、どこかに本当の話を入れてしまうというのがわたしの主張です*1


これでやっと本作の感想にたどりついたのですが、本作のおもしろさは嘘の付き方、見せ方にあります。
作中で一度「これは嘘でした」と表明されることで、観る側はそこまで起きたすべてを嘘だと思い込んでしまうのですが、本当はそうではなくて嘘の中にも真実は隠されていることに二度驚かされるのです。原作がいいということなのでしょうが、それだけでなく、映像化にあたって脚本もよく練られているのが伝わってくる作品でした。


ひじょうにおもしろかったです。


公式サイトはこちら

*1:だいぶ端折ったので、あとで追記するかも