就活のバカヤロー

就活のバカヤロー (光文社新書)

就活のバカヤロー (光文社新書)

就職活動(通称「就活」)をテーマに、企業の人事や大学の教職員、就活中の大学生らに徹底取材したあと、腹の底から出てきたのがこのひと言だ。「私は納豆のようにねばり強い人間です」と、決まり文句を連呼する“納豆学生”、「企業は教育の邪魔をするな」と叫ぶわりに、就職実績をやたらと気にする“崖っぷち大学”、営業のことを「コンサルティング営業」と言い換えてまで人材を獲得しようとする“ブラック企業”―「企業と社会の未来をつくる行為」「学生個々人が未来に向けて大きな一歩を踏み出す行為」であったはずの就職活動は、いまや騙し合い、憎しみ合いの様相を呈し、嫌悪感と倦怠感が渦巻く茶番劇に成り下がった。さて、いったい誰が悪いのか。

Amazon CAPTCHA

思い返してみると私が就職活動をしていたのは今から8年前になるのかー。就職活動をしていた当時についてはいろいろと思い出があって懐かしい気持ちと共に思い出したのですが、それについてはあとで別枠で書くことにします。ひとまずはこの本の感想を書かねば。


タイトルを見ていただければ分かりますが、本書は現在の新卒採用活動がいかに馬鹿げた状況に陥っているのかということについてまとめた一冊です。日本は他国に比べて新卒原理主義と言っても過言ではないほど新卒であるというだけでそれが売りになってしまうのですが、一方でその人生で一度きりとも言える新卒採用試験は非常に特殊なものとなってしまっていて、これに関わる誰もが幸せになれない状態になっているというの著者の主張です。本書のすばらしいところは、「新卒採用に関わるもの」すべてのそれぞれの視点/主張をきちんとまとめていることです。そのため、これ一冊をとおして読めば、関わる誰もが幸せになっていない実情がはっきりと見えてきますし、それに対して著者なりの改善案も述べられているのは非常によい記述の仕方だと感じました。
これらの事実と著者からのアイディアを元に、新卒採用はどうあるべきなのかということについて考えてみましたがあまりに多くの人間/組織が関わり過ぎていて落としどころが見当たらず心が折れそうになります。思考実験をする分にはおもしろいですが、現実にこれを改善していこうとなるとあまりに無理過ぎて気が遠くなるようです。


それとひとつだけこの本に不満があるとすれば略語が多過ぎるということです。いや、もしかしたらこの本が悪いのではないのかも知れませんが、例えば「就職活動」→「就活」や「採用活動」→「採活」という表現はたとえ一般的な呼称がそれだとしてもそう書くべきではないとわたしは断言します。
わたしがむやみやたらと言葉を略語に置き換えることを嫌う理由は簡単で、動作/行為を表す言葉を略してしまうとそれは元の言葉とは別のものになってしまうからです。例えば「就職活動」とは就職するための活動をあらわすというのは単語から分かりますが、「就活」としてしまうとそれだけでは何のことか分かりません。まあさすがにわからないは言い過ぎですが、単語の中にエントリーシートを書くことやインターンシップ、合同説明会に参加することなど具体的な作業を含んだ単語になってしまい本来の言葉にはなかった意味をもたせることになってしまいます。最終的には多様な意味を含んだ非常に不透明な言葉としてどんどん膨らみ続け、その言葉があらわしている本質や実態がまったく分からなくなってしまうのです。
基本的に私は略語が好きではありますが、ことこの就職に関わることについては自分がこれから働く場所を見つけるための活動なのだということを明確に意識するためにもこんな略語を広めるのは止めて欲しいです。


と言いつつ、でもタイトルにこの単語を持ってきているあたりは非常にうまいなと感心してしまいます。矛盾するようですが、こういう違和感をうまくタイトルに組み込んでいるんですよね。略語を広めたくないと書いておいてなんですがものすごくこのタイトルは大好きです。



本書は現在就職活動中という学生は当然として、働き始めてしばらく経った人にも働き始めたころのことを思い出しながら一読して欲しいなと思います。感想には書いていませんが、面接や支援サイトの裏側についての記述はかなり詳細でとても興味深くてまさに必読です。