- 作者: 恩田陸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2001/01/30
- メディア: 文庫
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津村沙世子―とある地方の高校にやってきた、美しく謎めいた転校生。高校には十数年間にわたり、奇妙なゲームが受け継がれていた。三年に一度、サヨコと呼ばれる生徒が、見えざる手によって選ばれるのだ。そして今年は、「六番目のサヨコ」が誕生する年だった。学園生活、友情、恋愛。やがては失われる青春の輝きを美しい水晶に封じ込め、漆黒の恐怖で包みこんだ、伝説のデビュー作。
http://www.amazon.jp/dp/4101234132
この作品は恩田さんのデビュー作だそうですが、↑の紹介文にある「伝説の...」という冠詞はいっさいの誇張なしで妥当な表現だと実感出来る作品でした。
恩田さんが高校生を描く作品といえば「夜のピクニック」がとてもメジャーな作品ですが、あれは学校の一大イベントである「歩行際」にスポットライトを当てて描いていました。対してこの作品は、高校生活最後の一年間という長期にわたって描いていて、四季それぞれにわけられた章ごとに起こるイベントや出来事をとおして見る作品の中の世界が、徐々に立体的に頭の中に作り上げられていくすごい作品でした。一年間という時間をとおして描いているために、読み終える頃には登場人物への思い入れも強くなり過ぎて、しまいにはわたしもこのクラスメイトたちと卒業するんじゃなかろうかという気分にまで高ぶってしまい、おもわず涙が出そうになりました。
なぜ、これほどまでにこの作品の世界に取り込まれてしまうのかと言えば、ひとえに恩田さんのつむぐ文章のひとつひとつが集まって形成する世界が、あまりにあざやかに、そして自然と、わたし自身の高校生時代とリンクしてしまうのです。もちろん、この作品のすべての場面をわたしが経験しているわけでは当然ありませんが、誰もがその表現のどこかに引っかかりを感じてしまうほどに抽象的で、でもそれが頭の中で結びつきやすいくらいに具体的な描写の仕方がすごいなと感じました。
くどいようですが、ホントすごいんですよ。
こういう、ほめたいのにほめられない時に、もっと語彙が必要だなーと痛感します。悔しいなあ。
この作品を読み終わってひとつ気になったことがありました。
読み終わってあとにふと全体を眺めなおしながらパラパラ読み直した時に、作品から迷いというか作品の方向性が最後まで定められなかったことへのはがゆさみたいなものを感じました*1。中盤までに存在した圧倒的に読む人をひきつけるパワーに比べて、決定的に弱い後半から結末にかけては当初の勢いだけでは書ききれなかったことへの無念がにじみでているように感じられたのです。
こんなことを書いている本人もよくわかっていないのですが、こうじゃなかったんだよなーと思いながら冬から春にかけての部分を書いていたんじゃないかと読みながら感じたのです。
普段は小説を読んでこんなことなど感じたことがないのですが、あまりにのめりすぎたのかそんなことを読み終わってから延々と考えてしまいました。
[追記]
高校の一大イベントをテーマにした作品と日常*2をテーマにした作品の対比というのをどこかで書いたような気がしたのですが、「リンダリンダリンダ」と「檸檬のころ」の感想を書いたときにそんなことを書いてました。
前者と夜ピクは一大イベントをテーマにした作品であり、この作品と檸檬の..は高校生活最後の一年間を描いた作品であり、この対照的な描き方をした作品をとおして、自分自身の嗜好が思っていた以上にいい加減だということが分かってとてもおもしろいなと感じました。
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