図書室の海

図書室の海 (新潮文庫)

図書室の海 (新潮文庫)

あたしは主人公にはなれない――。関根夏はそう思っていた。だが半年前の卒業式、夏はテニス部の先輩・志田から、秘密の使命を授かった。高校で代々語り継がれる〈サヨコ〉伝説に関わる使命を……。少女の一瞬のときめきを描く『六番目の小夜子』の番外篇(表題作)、『夜のピクニック』の前日譚「ピクニックの準備」など全10話。恩田ワールドの魅力を凝縮したあまりにも贅沢な短篇玉手箱。

恩田陸 『図書室の海』 | 新潮社

恩田さんの代表作のスピンオフが3作も読めるものすごく贅沢な一冊。とりあえずこの作品を読む前に「六番目の小夜子」と「夜のピクニック」、「麦の海に沈む果実 」は読んでおいた方が賢明です。そうでなければこの作品のすばらしさ/ありがたさの十分の一も伝わらないのであまりにもったいなさ過ぎます。運良くこれらの作品を読んだ後だったので、手を合わせたくなるくらいありがたい気持ちをもって読みました。すごくよかったです。


前からくどいくらい書いているのですが、映画も本も"地味な青春時代"を扱った作品がわたしは大好きなのです。
たしかにこんなこともあったよねー的な本当に大したことのない日常や思い出を描いた作品が大好きで、そういう作品があると聞くと手を出さずにはいられないのですが、この路線で好きな本と言えばまっさきに「夜のピクニック」と「六番目の小夜子」を思い出すほどこの二作品はわたしのツボをついた作品です。一ページ一ページをめくって読み進めるのがもったいないという感覚は、高校時代の3年間という限られた時間を少しずつ消費していくような名残惜しさに近い感覚であるように感じました。
何で違う本の感想を書いているのか分からなくなってきたので話を戻しますが、そんな大好きな作品のスピンオフを予期せず読めたというのは本当に嬉しいことで、もうこの短編の内容がどうとかそういうレベルではなくて、派生作品に出会えたことそのものに心から感謝しながら読みました。


また、これらスピンオフ作品だけではなく、それ以外の7作品もものすごく面白いです。特に「茶色の小壜」と「国境の南」のゾクゾクくる感じが非常にたまらなくて、この2作品は3回繰り返して読んでしまうほどでした。


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