「木洩れ日に泳ぐ魚」読んだよ

木洩れ日に泳ぐ魚 (文春文庫)

木洩れ日に泳ぐ魚 (文春文庫)

あの旅から、すべてが変わってしまった。一組の男女が迎えた最期の夜明らかにされなければならない、ある男の死の秘密。運命と記憶、愛と葛藤が絡みあう恩田陸の新たな世界。

http://www.amazon.co.jp/dp/4120038513

一部分を隠し続けることで読み手の興味を持続させる点や、作中で提示した点と点を徐々につないで紡いでいくうまさ。
恩田さんの本はどの作品を読んでも安定しておもしろいし、そしてその中にはいつも新しい発見、サプライズが潜んでいて楽しませてくれます。本作もまたそんな謎に満ちた魅力と、ドキドキでいっぱいの作品でした。
それにしても恩田さんは何でこんなにおもしろい本ばかりかけるんだろう...。


この本を読んでいると、小説を読むという行為はただ文字を追うだけの行為ではないのだということを改めて実感させられます。
本を読んだ人は、文字を読み、その読んだ内容を自分なりに構築しなおして頭の中で再生させています。その結果、本を読み進めれば進むほど本の中の世界はより立体的に、そしてリアリティを読み手に感じさせてくれます。
ところが、その頭の中に作り上げた世界は文章の中のわずかな文字をもとに構築された世界であるため、細部には読み手の思い込みや勘違いも一緒に練り込まれてしまうことがよくあります。


そういった読み手の思い込みを意図的に利用した叙述トリックもたしかに面白いですし、ミスリード系の作品は読み手を驚かせてくれるので受けがよいのですが、でもわたしはそういった変化球的な構成よりも、本作のような登場人物たちが会話によって記憶がだんだんと明らかになっていくという潔すぎるくらいまっすぐな構成が好きなんですよね。
スリード系の作品って読む方も「だまされないぞ!」と肩ひじ張って慎重に読んじゃいますし、いちいち穿って読んでしまうので正直あまり読んでて楽しくないのです。ミスリード系の作品を読み過ぎてもう食傷気味だというのもあるのでしょうが、やはりスタンダードなものが一番いいなと32歳のわたしはそう思います。


夏の終わりから秋にかけて読みたくなりそうな作品。