西日の町

西日の町 (文春文庫)

西日の町 (文春文庫)

西日を追うようにして辿り着いた北九州の町、若い母と十歳の「僕」が身を寄せ合うところへ、ふらりと「てこじい」が現れた。無頼の限りを尽くした祖父。六畳の端にうずくまって動かない。どっさり秘密を抱えて。秘密?てこじいばかりではない、母もまた…。よじれた心模様は、やがて最も美しいラストを迎える。

http://www.amazon.jp/dp/4167679590

「春のオルガン」に続く湯本さんの著書を読んでみようシリーズ第2弾。
冒頭突如家に住み着くことになった「てこじい」に対して、母と僕が感じた違和感というか何と言うのが一番適切なのか分からないけれど、とにかく早くいなくなって欲しいという気持ち。そんなマイナスの感情が、日を追うごとにいつしかてこじいに対する暖かい感情へと変わっていく様子がすごく丁寧に優しく描かれていました。この作品もまた湯本さんがよく描く「最初は反発しあっていた老人と子どもが分かり合う物語」であり、てこじいの強烈なまでの偏屈さの影に見え隠れする不器用な優しさと和志がそれに気付いて心を許していく様子は、何度読み返してもうれしくなるというか、何度も読み返したくなります*1
この本を読んで、湯本さんに対する信頼というか、この人の文章はわたしの感性にとても適しているんだなという確信をもつことが出来ました。


そうそう。
ひとつすごく驚いたことがあって、この本の文字の大きさにはちょっとびっくりしました。読みやすいのはよいのですが、あとがきを含めて180ページ弱の文庫が1時間かからず読めてしまいました。

*1:何だかよくわかんないですがこの表現がしっくりきます