ガチ☆ボーイ


大学生の五十嵐良一(佐藤隆太)は突然プロレス研究会に入部するが、何でもメモを取る割に学生プロレスで一番大事なこととされる“段取り”を覚えられずにいた。そんな中、商店街でのデビュー戦を迎えた良一は、段取りを忘れたために本気でガチンコの試合をすることになるが、それが観客にウケて一躍人気レスラーになる。

ガチ☆ボーイ (2007) - シネマトゥデイ

MOVIX宇都宮にて。
記憶障害のある青年がプロレスをとおして生きていることを実感しようとする物語。
病気をテーマにした映画はあまり見たことはないのですが、予告が非常に魅力的だったので観てきました。
笑いを誘ったかと思えば、一気に切ない気持ちにさせられたりと感情が休まる暇がないくらいでした。面白いという言葉が適切かどうか自信がありませんが、非常に観て良かったと感じた作品でした。


それにしても、この作品はどのシーンも芸が細かくてひとつも見逃せません。
プロレス好きなら思わずニヤニヤしてしまうシーンの連続に、一人でクスクス笑ってしまいました。
特にレスラー呼吸が出てくるシーンはどれももれなく吹き出さずには居られないくらいツボでした。新日好きであれを笑わずにはいられる人はこの世にいないんじゃないかとすら思います。


そしてこれだけの楽しいシーンの合間に見せられる五十嵐の生きている現実の厳しさ。
この作品を見ていて非常にハッとさせられるのが、五十嵐が朝起きた時に見せる不安そうな表情のリアルさなのです。
一度寝てしまうとそれまでの記憶が無くなるという事の大変さについては、このシーンを見る前にも想像出来ていたつもりでした。ですが、単に不便という程度には収まらない「毎日記憶が消える事」の異常性がひしひしと伝わってきました。


例え今日誰かと会話をしたとしても、決してそれが自身の記憶としては残らないこと自体もかなり厳しいのですが、そのせいで毎日目が覚めた時には事故当日の記憶状態から始まるという考えただけで気が狂いそうな状態におかれているその絶望っぷりに見ているこちらも抑鬱として気分になりました。
そしてこの記憶が残らないということから感じたのは、毎日毎日変わり映えのしない日々が続いていたとしても、自身の記憶に積み重ねた毎日があり、そしてその記憶を他人と共有する事を前提として人間は生きてきたんだなということ。
記憶を共有するというたったそれだけのことが出来ないだけで、こんなにも生きるのが大変になるのは正直おどろきでした。


見終わって分かったのですが、この作品の構成もまさにプロレスそのものなんですよね。
冒頭の盛り上がりは開始直後の乱闘のようなものですし、中盤にかけての辛い現実と向き合う部分は相手の技を受けて窮地に追い込まれる部分と重なります。そして後半からラストにかけての盛り上がりは決着間近なクライマックス。


なるほど楽しいわけだと改めて感心してしまいました。見てよかったです。


[追記]
久しぶりにプロレスが見たい気分になったのでちょっとプロレスについて書いてみます。



よくプロレスは真剣勝負じゃないから面白くないという人がいます。
さらに、最近ではK-1やPRIDE(無くなっちゃったけど)のようにガチンコを謳った試合が手軽に楽しめるためか、ガチンコ崇拝は過熱の一途です。


ではなぜガチンコの方が楽しいと思えるのか?


それは結末が予想出来ないからではないでしょうか。次の展開が気になって見てしまうというのもありますし、自分が応援している選手が勝つかどうかというのが非常に気になってワクワクするんじゃないかと思います。


では逆にガチンコじゃないものは面白くないのかと言えばそれはありえません。
例えば時代劇*1は圧倒的な力で勧善懲悪という形で決着がつく事は分かっていますが、それを楽しみに見ている人がほとんどだと思います。私腹を肥やす悪代官が徹底的に叩きのめされるのが見たくてみんな見ているのです。


プロレスだってそうです。
結果はもちろん気になりますがそれだけじゃないし、むしろ結果はおまけ。G1で優勝したとかベルトを持ってるとかそういうのは別として、普段はどれだけ観客の記憶に残れるかというのが勝負どころなのです。記録より記憶。正に全員が新庄状態なのです。
そんなイイ試合を積み重ねることで観客の記憶に残っていき、そしてファンが出来ていくのです。


結果云々だけではなく、この人の試合が見たいと思わせないとプロレスでは人気が出ません。ガチンコだけとはまた違ったシビアな世界です。


あんなにガタイのいい男達が互いの持つ力をぶつけ合う素晴らしさ。しかも相手の技を受けきる事が美徳として確立しているので大技がどんどん決まります。大技を受けてフラフラの状態からでも立ち上がってくるというドラマ性。


プロレスってすごいと思いませんか?
私は心底すごいと思うし、この映画を機にプロレス人気が再燃してくれる事を切に願います。


公式サイトはこちら

*1:一番分かりやすいのは水戸黄門かな