「R100」見たよ


都内有名家具店に勤務する片山貴文には秘密があった。それは、謎のクラブ「ボンデージ」に入会してしまったということ。以降、様々なタイプの美女たちが片山の日常生活の中に突然現れ、彼をこれまで味わったことのない世界へと誘っていった。しかし内容は次第にエスカレートしていき、女性たちは彼の職場や家庭にも現れるようになる。耐えられなくなった片山はプレイの中止を求めるが、一向に受け入れられない。さらなる予測不能の事態が次々と巻き起こる中、果たして彼の運命は…?

『R100』作品情報 | cinemacafe.net


MOVIX宇都宮で観てきました。

トロント映画祭での酷評や公開直後のお葬式っぷりばかりが取り沙汰されて肝心の映画の感想をまったく見かけなかった本作「R100」ですが、id:fujiponさんが感想を上げていたのを読んだら(リンク)これはさっさと観に行かないと上映が終わってしまうような気がしたしどうしても自分の目で見ておきたかったので取り急ぎ観に行ってきました。

観ながら感じたのはこれを海外の映画祭に出展したり劇場公開してもいいと判断した人は何を考えてそうしたんだろうかということでした。

松本さんが監督をしている過去の作品はすべて観ていて、そのどれもおもしろいかどうかで言えば決しておもしろい方に分類される作品ではありませんでした。「大日本人」はラスト30分のコントが最悪でしたし、「しんぼる」は観ていてすごくもやもやする内容でした。さらに「さや侍」はコントの延長でしか無いようなものであり中途半端にふつう映画っぽく撮っていたことが逆に違和感を増幅させていたように感じました。

でもこの作品を観終えたいま、あらためて過去の3作品を振りかえるとあの作品たちはまだ楽しめた方だったなと思います。


本作は「日常のあらゆるシチュエーションでSMを楽しませてくれるとボンデージというクラブに入ってしまったMな男性が家族も巻き込んでひどい目に合わされる」というお話。前半はひたすら日常のさまざまなシチュエーションでひどい目に合わされる男性の姿を描いていてそこがすごく不快で笑えなかったのですが、さらに後半になるとそれまでの立ち位置から一歩引いたメタな視点で物語を俯瞰するということをやっていてこれが本当に笑えなくてがっかりしました。


「ある人が幸せを感じる出来事は他人から理解されない場合もある」というのは分からなくもないし、わたしが不快だと感じたSMのシーンもそれが表現したいことの一つだというのであれば理解できなくはないです。観終えてから「観る側の苦痛も含めてSMなんじゃないか」という指摘をもらってなるほどと思ったので好き嫌いはあるものの前半パートは悪くないと思います。

ただ、後半でこの映画自体もしくは観客が観ている状態までを含めてそれ全体を俯瞰するような演出を組み入れてきたのは正直すごく興ざめでした。

わたしの偏見ですが、おもしろい映画って作品のあちこちに「こういうのを撮りたいんだよ」っていう作り手が熱にうかされているように感じる部分があると思っています。最近だと「パシフィック・リム」なんかがその好例ですが、どんなくだらない設定やバカバカしい内容であっても全力でその映像化に突き進んでいくような熱いパッションが作品の細部にまで浸透してはじめて、観る側も全力でその作品に没頭できると思うのです。

大してこの作品(とくに後半パート)は、作品に対する熱意の無さというか「自分はちゃんとわかってますよ」「冷静に分析してますよ」という自己擁護ばかりが目についてしまい、何か常にそういう冷めた目線にさらされているような気分になってしまいました。そしてわたしのそういうネガティブな反応もふくめて「ぜんぶ想定どおりです」と言わんばかりの展開に観ていてうんざりさせられました。


こういう作品は本来であれば松本さんのファンが観て喜ぶべきものなのでしょうし、わたしのような彼にさほど興味のない人が観るべきものではないのかも知れません。ただ、ここまで劇場にまったく人が入っていないという状況を直視すれば、過去の3作品をとおして彼のファンは学習して懲りてしまったのではないかと思わざるを得ません。

もう彼のことが好きだからというだけでは劇場に足を運ぶ人はほとんどいないのかなと思うし、運んだとしても途中で帰りたくなるんじゃなかろうかと。実際に今回観たときに途中で帰った人が2人いました。その人たちの気持ちがわたしはよくわかります。興行収入次第ではこれが彼の最後の作品になるんじゃないかなということをぼんやりと考えちゃいました。


すごくおもしろくなかったし好きではないのですが、「誰も観ようと思わない映画を観る」というのがわたしの信条ですのでこの作品を劇場で観ることができたことはすごくよかったなと思います。


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