韓国最大の犯罪組織に潜入し、8年になる警察官ジャソン(イ・ジョンジェ)。彼に潜入捜査を命じたのは、上司のカン課長(チェ・ミンシク)だ。ジャソンは、自分と同じ中国系韓国人である組織のNO.2、チョン・チョン (ファン・ジョンミン)が、真実を知らずに兄弟のように慕ってくることに胸を痛めていた。だが、組織のリーダーが急死。カン課長は一気に組織の粉砕を目論み、ジャソンに「新世界」作戦を命じる――。
『新しき世界』作品情報 | cinemacafe.net
今年の2月に公開された本作ですが、観た方の評判はとてもよくて気になっていましたが本日やっと観てきました。
公開した直後に観ることができなかったのは「近くの劇場で上映がしていなかった」というのが対外的な理由ですが、一番の理由は「潜入捜査モノが大の苦手だから」なのです。恥ずかしくて言えませんでしたが...(照)
本作は韓国の警察が犯罪組織に潜入捜査をするお話なんですが、こういう作品でありがちなのが「いつ潜入がばれちゃうんだろう...」という緊張感が常にピンと張られていて落ち着かないという展開です。もちろんそういったスリルは映画を楽しむ醍醐味のひとつだというのは重々承知しておりますが、ただ、胃腸があまりストロングではないわたしにはちょっとストレス過多で正直2時間観るのはしんどいタイプの作品に分類されます。
ところがそういった緊張感はとうぜんこの作品にもあるものの、それよりも知謀や暴力によってその所在を転々と変えていく権力がどこで落ち着くのかすごく気になるし、さらに潜入捜査官である主人公が抱える「本来の居場所である警察組織のために働くのか」「現実の同胞であるチョン・チョンのためにがんばるのか」といった葛藤にはつよいシンパシーをおぼえてしまいました。
そんな心惹かれるポイントがあまりに多過ぎたために潜入捜査の緊張感に怯えている暇などないほどのめりこんでしまったし、苦手意識は吹っ飛んでいました。「土竜の唄」もすごく楽しめたし潜入捜査モノももうだいじょうぶかも!(違)
ただ、どんなに強大な権力を手に入れて多くの部下にめぐまれたとしてもそこに信頼できる他者いるなんて保証はどこにもありません。
もちろん「心から信用できる他人なんてそんなにいるもんじゃない」というのは誰でもわかっていることだと思いますが、自分の命令であればなんでも聞くような従順な他者が身の回りに多くいる状況であるがゆえに、「こんなにたくさんの人がいるのに心の底から信用しあえる人が一人もいない」ということはかなり寂しいと感じるような気がしました。
結局、人間というのは一人で生きていくしかないんだ、孤独なんだという絶望的な現実、そしてどこまで力を得たとしても安定は決して得られないんだという事実。この作品はひたすらそのことを目前に突き付け続けた作品であったと感じたし、そのあまりの重さには映画を観ていただけのわたしですら胃が痛く感じられるほどでした。
そしてそんなふうに絶望の淵にいることを認めざるを得ないものを見せられて受け入れたからこそ、チョン・チョンの死に際に彼と交わした会話の中に「こんなふうに自分を信用してくれる人がこの世のどこかにいるんじゃないか」という希望を見たし、そのことに救われたような気持ちになりました。
@宇都宮ヒカリ座で鑑賞
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