触れるもの全てを凍てつかせる“秘密の力”を持つ姉・エルサはその力を制御できず、真夏の王国を凍てつく冬の世界に変えてしまった。妹のアナは、逃亡した姉と王国を救うため、山男のクリストフとその相棒のトナカイのスヴェン、“夏に憧れる雪だるま”のオラフと共に雪山の奥深くへと旅に出るのだが…。
『アナと雪の女王』作品情報 | cinemacafe.net
(注意) ネタバレありですので未見の方はご注意ください
映画を観るようになって7年目になりますが、自分がどんな作品を好むのかはっきりと自覚するまでにはわりと時間がかかりました。
もちろん映画を観始めた当初から自分が好む作品の傾向は把握していたつもりでしたが、興味のないジャンルや作品を積極的に観ようという努力が足りなかったために、結局は「以前から好きなジャンル」という枠にはまった作品をめでているだけでした。
根っからの小心者なのでホラーやスラッシャー映画にはなかなか手が出ませんでしたし、字幕を読むのがめんどうだという理由で邦画ばかり観ていた時期もありました。あとは「アニメーションは子どもが観るモノ」という先入観が捨てきれない、もしくは実写の方が好きという理由からアニメをほとんど観ない時期もありました。
こんなふうにやや好奇心に欠けてはいますが、それでもこれだけ長く映画を観ているとしぜんといろいろなジャンルに興味をもつようになってあれこれ観るようになり、そのおかげで自分が本当に好きなジャンルを見つけることができました。いまわたしが一番好きな物語はプリンセスストーリーです。
「美女と野獣」「プリンセスと魔法のキス」など、いくつか王女が活躍する物語を観てそのおもしろさに惹かれていたのですが、それを決定的にしたのは2011年に公開された「塔の上のラプンツェル」でした。
正直、観る前は「いい年したおっさんがお姫様の話なんて楽しめないだろうな...」と思っていたのですが、これがもうものすごくおもしろくて何度も劇場に観に行くほど気に入ってしまいました。詳細な感想はもう書いているのでここでは割愛しますが、「塔の上のラプンツェル」は2011年に観た197本の中でもっとも好きな作品であり、その翌年2012年に観た200作品の中でもっとも好きな作品は「白雪姫と鏡の女王」とこれまたプリンセスストーリーでした。
ラプンツェルを観たことでわたしはプリンセスストーリーの魅力に気づいてしまったのです。
あまりにプリンセスストーリーが好き過ぎるのが不思議で「プリンセスストーリーのいいところってなんだろう?」と一度考えてみたことがあるのですが、そのときは「主人公である王女がもつ魅力」と「解放される心地よさ」にあるのではないかという結論になりました。これも書くと長くなるのでここでは割愛。
というわけで、長々と前置きを書いてしまいましたが、わたしにプリンセスストーリーの魅力を叩きこんでくれたディズニーが新たなプリンセス映画「アナと雪の女王」(以下アナ雪)を公開してくれたので観てきました、というのがこのエントリーの本論です。
アナ雪は3月14日に公開されたのですが、わたしは公開日に2D字幕版を観てその後すぐに子どもたちと2D吹替版でもう1回、さらに一人で2D字幕を1回と合計3回観ました。次女がいたくこの作品を気に入ったらしいのでこの週末に吹替え版でもう一度観る予定ですが、何度観てもまったく飽きないし、好きなシーンは観れば観るほど好きになっていきます。
まずこの作品一番の魅力はストーリーと音楽が違和感なく融合している点であり、さらにその音楽がポップで思わず口ずさみたくなる楽曲ばかりである点です。楽曲も映像も想像していた以上に中毒性が高く、何度も何度もくりかえし観て聴きたくなるのです。
この作品で一番有名なのは城から逃げてきたエルサが雪山の中に魔法で見事な城を作り上げるシーンだと思います。
最初は寂しさから表情をゆがめていたエルサが、少しずつ自らの力を解放しながらのびやかに「Let It go」を歌い上げるさまはもはや圧巻としかいいようがありません。「Let It go」単体でもじゅうぶんすばらしい楽曲であると思いますが、やはりエルサがそれまで抑え込んでいた感情を解放しながら歌っているシーンとの相乗効果があってこそのこのヒットなんじゃないかと思います。
ヒットした理由をいろいろと分析している人がいてわりと細かくヒットの理由を挙げていましたが、わたしは「分かりやすいストーリー」と「ポップで口ずさみたくなる楽曲」の組み合わせこそがこの作品最大の魅力であり、この作品が多くの人に受け入れられてきた理由だと思います。たとえば特定の年齢層に受けるとかであれば細かい理由が複合的に絡み合って...なんてことがありそうですが、幅広い層に受けるためにはそういった小手先の何かではなく基礎的な部分をものすごい高いレベルで提示することが必要なんじゃないかなと思います。
シンプルだけど、でもシンプルであるが故に実現するのはすごくむずかしい。そんなことをやってのけたのがこの作品なんだろうなと。
そんなわけでさんざん書いたとおり、楽曲がこの作品の一番の魅力だと思っているわけですが、ではわたしがこの作品を観て一番おもしろいなと思ったのはなにかというと、この作品を観た人が書く感想の視点がとにかくバラバラだという点です。
- 太田光や伊集院光にはわからない、つまりオッサンには見えない、女の子の革命。
- 『アナと雪の女王』にかかったジェンダー観の砂糖衣
- 【ネタバレ注意】「アナと雪の女王」を見た長女が感じた長子の悲哀
- 「アナ雪に共感する長子たち」の嘆きになんかモヤモヤする次女のつぶやき
とりあえずメモしてあったものだけリンクを張りますが、ジェンダー問題と結びつけて感想を書く人がいたかと思うと、長女/次女の共感やそれへの反駁を書く人もいたし、エルサの能力を隠そうとした親が悪いと教育問題的な視点から書く人もいました。もちろんみんなが同じような感想を書くわけではないのですが、それにしても題材が幅広過ぎるなという印象をもっていました。
そんなとき、この作品に関するあるテキストを読んでもしかしたら...と思うところが出てきたのです。
そのテキストは「『アナと雪の女王』ハンス王子の解釈」というタイトルなのですが、この中でハンス王子の行動分析がされていました。
最初に書いたとおり、この作品はとても分かりやすいストーリーでとくに悩むところはなかったのですが、一点だけ「あれ?」と思ったところがありました。それはハンス王子の行動がちょっと一貫していないようにも見えてその行動原理がいまいち読めなかったところです。
この点について上記のサイトではこんなふうに書かれています。
ハンスが矛盾する様々な解釈を呼び起こすのも無理はありません。ハンスという存在は、「本当の」ハンスという存在は、どこにもないのです。図書室のシーンですら。『アナと雪の女王』で、ハンスが登場する全てのシーンにおいて、彼は他のキャラクターの鏡として機能します。彼らの感情や思いを具現化するのです。
彼は誠実でないわけではありません。むしろその反対です。彼はどの瞬間も反映する人たちに誠実なのです。ある瞬間には真摯に愛し、またある瞬間には真摯に優しさを見せ、そしてまたある時には死刑を執行します。彼の人格は「共感」であり、自分の傍にいる人を映し出すのです。
Red Notebook 『アナと雪の女王』ハンス王子の解釈
ハンスは自らをのぞきこんだ人の想いを映す鏡であると言う意見はすごくおもしろいなと思ったし、ハンスに行動原理などなく、相対する人の内面を反映しているだけだと考えるとなるほどそうかも知れないなと納得したのです。
そしてこの意見を読みながら「もしかしたらこの作品もまた鏡のような役割をしているだけであって、観た人が内面に抱えている問題を映し出しているんじゃないか」と思ったのです。人それぞれ、観た映画への印象が大きく違うなんてことは当たり前のようにあることなんですが、そういうことともちょっと違うかなと。
ハンスが鏡のように振る舞うのは観ている側に鏡の存在をほのめかすために配置されていると考えると、彼のような役割を担うキャラクターが出てくる理由もわかるような気がしたのです。
前半のハンスを見ているかぎりでは彼が裏切り者になりさがるとはとても思えなかったし、でも後半とつじょ裏切った彼に他意があったのかというとそれも無いかなと思っていました。その相反する二つの状態のどちらが真実なのか悩みましたが、彼の人となりという切り口では不可解だった行動も、作品からの要請であのようなキャラクターが必要だったんだと割り切るとすごくすっきりしました。
これ以外にもあれこれ言いたいこと、気になること、書きたいことがあるのですが、まだまだ考え足りないので温めておこうと思います。
ちなみに、この作品の公開2カ月前から輸入盤のサントラを買い込んで毎日聴いていました。
映画を観る前もすごく好きな楽曲ばかりだと思っていましたが、映画を観てからはもっともっと楽曲のことが好きになってしまい、いまだに毎日聴いてしまうくらい気に入っています。
- アーティスト: Idina Menzel,Kristen Bell,Jonathan Groff,Josh Gadd,Demi Lovato,Robert Lopez,Kristen Anderson-Lopez
- 出版社/メーカー: Walt Disney Records
- 発売日: 2013/11/25
- メディア: CD
- この商品を含むブログ (3件) を見る
ぜんぶ大好きなんですが、とりわけ好きなのは「For the first time in forever」です。
「Let It go」ももちろん大好きなんですが、わたしはアナ派なのでアナがそれまでの閉鎖的な生活から解放されるシーンで流れるこの「For the first time in forever」がすごく好きなんです。
窓は開いていない、門も閉めっぱなし、とうぜん誰も来ないし城の中にいるのはスタッフだけで唯一の家族であるお姉ちゃんからは無視されっぱなしというたいへん悲惨な状況にあったアナが、多くの来客をお城に迎えることを想像してテンションMAXでお城を駆け巡るわけですがこれがもう超かわいい。
ラプンツェルが初めて塔を出たときのように、喜びの感情をまっすぐに吐き出しているところがすごく気に入っているし、楽曲もそんな彼女の気持ちを見事に表現しています。そしてそんな喜びにうちふるえるアナとは対照的に、自らの力が露呈しまうことをおそれているエルサの気持ちもまたしっかりとこの曲の中にしたためられています。
iTuneの評価をみたり周囲の人に聴いても「For the first time in forever」って評価があまり高くないんですが、わたしはもう断然この曲がこの作品で一番好きな曲です。
そんなわけで映像付で何度も何度もこの曲を聴きたいので早くDVDが出て欲しいですし、英語版でいいから買おうかなと毎日悩んでいます。
@TOHOシネマズ宇都宮で鑑賞
(関連リンク)
公式サイトはこちら