「アウトサイダー」読んだよ


自殺とされた夫の死の真相に迫る警視庁上野署の八神。警察による証拠改ざんの疑いが増す中、執念で掴んだ手がかりは、新宿署の五條の存在だった。権威と暴力で闇社会を支配する五條に、八神は命を賭した闘いを仕掛ける。硝煙の彼方に追い求めた真実は見えるのか?美しくも危険すぎる女刑事が疾走する警察小説シリーズ、壮絶なクライマックスへ。

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刑事モノの映画ってあまり好んで観ないのですが「ダーティハリー」はとても好きな作品です。

ダーティハリー [Blu-ray]

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とても有名な作品なので知っている人も多いかと思いますが、悪事を働く狡猾な不届きものをつかまえるためにキャラハン刑事が法的にはグレーゾーン(もしくは真っ黒)なことに手を染めながら戦うというお話です。

警察というのは暴力装置であるがゆえに、(少なくとも建前の上では)とうぜん順法精神が求められます。
ところが世にはびこる犯罪者は当然法などおかまい無しにふるまうか、もしくはうまく法を悪用して自らの身を守ろうとするために、警察が犯罪者をつかまえることはそう容易ではない場合があります。

ごっこで例えるならば、逃げる側(犯罪者)は他人の庭に逃げ込もうとも道路を斜め横断しようとも構わないのですが、追う側(警察)は交通ルールを守りながら追いかけなければならないという変則ルールの上で戦っているのと同じ関係にあるわけです。これじゃあつかまえられるものもつかまえられないですよね...。

そこで望まれるのは法を犯してでも犯罪者をつかまえられる人であり、それがキャラハン刑事のような存在なのです。

上述のとおり警察という組織は強力な暴力を有するがゆえに法を守ることをつよく望まれますが、一方では場合によっては法を犯してでも犯罪者を捕まえることがのぞまれます。でもこの2つの要求はあきらかに矛盾しているんですよね...。


話が映画からそれてしまいましたので、話を戻して本書の感想について。

アウトバーン」から始まった八神瑛子シリーズもこの作品で3冊目となりました。もっと長く続くと思っていたのですが、まさかの完結編ということでたいへん残念でしたが、全2作で組み立ててきた物語を見事に完成させてくれました。後半はやや性急に事が進んだようにも感じましたが、ここまで引っ張ってきた謎がすべてクリアになったことはとても喜ばしいことだと思いますし、前2作同様読む手が止まらず一気に読んでしまうおもしろい作品でした。


主人公の八神瑛子はダーティーハリーのような法のグレーゾーンを犯すことに躊躇はなく、自らの利害が一致する限りは暴力団や犯罪組織の一員といった反社会的な存在とも行動を共にします。ところが彼女の場合はキャラハン刑事とはちがい、その行動原理はあくまで自らののぞむ情報を得ることであって自分なりの正義とかそういうものではありません。

どちらかというとキャラハンのほうが人として立派なのですが、逆に八神のほうが利己的であるがゆえにその行動原理には共感をおぼえます。その心境にはシンパシーをおぼえしつつ、さらに自らがのぞむものが手に入らないと絶望するのではなく、たとえ犯罪に手を染めることになってもそれを得るために行動する強さにあこがれを抱いてしまう、そんな魅力あるキャラクターとして八神は描かれていたと思います。


八神以外にも魅力的なキャラクターはたくさんいましたし、正直これでおしまいになるのはさみしいかぎりです。
いつかまた続編やスピンオフが読めることを期待しています(希望:里美がやたら大暴れするスピンオフが読みたいです)。


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