「模倣の殺意」読んだよ


模倣の殺意 (創元推理文庫)

模倣の殺意 (創元推理文庫)

七月七日の午後七時、新進作家、坂井正夫が青酸カリによる服毒死を遂げた。遺書はなかったが、世を儚んでの自殺として処理された。坂井に編集雑務を頼んでいた医学書系の出版社に勤める中田秋子は、彼の部屋で偶然行きあわせた遠賀野律子の存在が気になり、独自に調査を始める。一方、ルポライター津久見伸助は、同人誌仲間だった坂井の死を記事にするよう雑誌社から依頼され、調べを進める内に、坂井がようやくの思いで発表にこぎつけた受賞後第一作が、さる有名作家の短編の盗作である疑惑が持ち上がり、坂井と確執のあった編集者、柳沢邦夫を追及していく。著者が絶対の自信を持って読者に仕掛ける超絶のトリック。記念すべきデビュー長編の改稿決定版。

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出張帰りに東京駅で本屋に寄ったら平積みされていて、しかも煽り文句がやたらおもしろそうだったので読んでみました。


本書はある男性作家の死の真相を突き止めようと調べてまわる男女の行動を、調査する男女それぞれの視点から描いた群像劇的に描かれるミステリーでしたが、たしかに意外性も説得力も十分あるおもしろい作品でした。結末については明確には予想がつかなかったものの、読み終えて振り返れば結末を示唆する情報はそれなりに出ていたことがうかがえたし、そういった意味ではかなりフェアに描かれていた点も非常に好印象を残しました。

内容が内容だけに具体的には書けませんが、書かれたのが40年前というだけあって表現がやや古いと感じる部分はあるものの、この手の意外性を売りにしている作品の中でもかなりおもしろい部類に入るのではないかと思います。


ただ、帯に「著者の書き間違えではないかという違和感をおぼえるところがある」とあったのですが、実際に読んでいる時にはそういった部分がなくてちょっと拍子抜けしました。いったいあの煽り文句はなんだったのだと巻末まで読んでみたところ、この作品には何度か手が入っていることを知り、そしてその改訂のひとつとして該当する箇所が大きく変更になっていることを知りました。

巻末を読む限り、叙述トリックが一般的になってきて読者が早い段階で結末に気づくことを避けるために文庫化にあたっていくつか手を入れているようなのですが、個人的にはその部分があまりよろしくないのではないかという気がしました。もちろん時代と共に変えていくことは決して悪いことではないのですが、この作品に限っていえば既読の人たちが未読の人たちが楽しく読めるようにこうした方がいいとあれこれ変えてしまうことがあまり作品によい影響を与えていないのではないかと感じました。

少なくとも変更したという箇所は変えない方がよかったのではないかと私は思いました。