「さよならドビュッシー」読んだよ

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

第8回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。選考委員が大絶賛した話題の感動作!
行間から立ち上るドビュッシー「月の光」や、ショパンエチュード 10-1」の美しい旋律。ピアニストを目指す少女、殺人、そして驚愕のラスト!

ピアニストを目指す遥、16歳。両親や祖父、帰国子女の従姉妹などに囲まれた幸福な彼女人生は、ある日突然終わりを迎える。祖父と従姉妹とともに火事に巻き込まれ、ただ一人生き残ったものの、全身火傷の大怪我を負ってしまったのだ。それでも彼女は逆境に負けずピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する――。

http://www.amazon.co.jp/dp/4796675302


(注意) 本エントリーは作品の内容に深く触れている部分があるので未読・未見の方はご注意ください。ネタバレしても楽しめる作品ではありますが、まずは自分の目で最後まで楽しむことをおすすめします。



今年の1月に「さよならドビュッシー」という映画が公開されました。
わたしの大好きな橋本愛さんと清塚信也さんが出演するというのでなにも考えずに観に行ったのですが、残念ながらわたしにはまったく合わない作品でしてほとんど楽しむことができませんでした。どんな作品にも合う/合わないというのはあるのでそれ自体はしょうがないのですが、映画自体は好きになれなかったものの、輪郭となる物語の部分がどうしても気になるというか、ひじょうに魅力を感じました。

そんなわけで「映画は観るけど原作は読まない派」のわたしにしてはめずらしく本書を手に取ってみました。


まず読んでみてのざっくりとした感想はというと、すばらしい傑作だと思います。
もう傑作なんていう言葉でさえ足りないくらいの大傑作ですね。ひさしぶりにこんなに楽しい読書体験をしました。おそらくこれからしばらくは「おすすめの本は?」と聞かれたらとりあえずこの本をすすめようと思うくらい気に入りました。


本書は第八回の「このミステリーがすごい」で大賞を受賞した作品だけあってとてもユニークな仕掛けが作品に施されています。

その仕掛けはいわゆる叙述トリックと呼ばれるものでして、おそらく叙述トリックであるという予備知識なく読んだらぜったいにその答えに気づかないようなすごいどんでん返しがラストに待っています。

じつは、本書を読む前はこの作品のことを「オチを楽しむ作品」だと思っていました。言い換えれば意外性のあるラストでおどろくことを目的とした作品であり、そこに至る過程よりも結末に重点が置かれているのだと思っていたのです。映画を観たときもそこにポイントが置かれているなと感じましたし。

そのため、「オチを知っている」ということが本書を読むうえで楽しさを半減、もしくは壊滅的なまでに減らしてしまうのではないかと心配していたのですが、読んでみてその心配はかんぜんな杞憂だったことがわかりました。あのオチを知っていることは作品のおもしろさには微塵も影響がないどころか、結末を知っているからこそ本文で描かれているすべての過程の意味について想いをはせることができたのです。


本書の核となる部分は決してあの結末ではありません。

ひとりの女性が火事によって体中の皮膚を失い、大事な家族も失ったところから再び立ち上がるそのプロセスを描いた作品であり、ピアノをとおして生きることと真っ向から向き合ってその生を全うしようとする物語です。あのラストが果たした役目は、そこにひとかけらのスパイスを投じる以上の意味はなかったんです。

10代半ばにして人生に選択肢が無くなり、自らの人生を歩むことを決意したひとりの高校生とその手助けをしたピアニスト。
わたしはこの2人の生へ、そして音楽へ執着する姿につよく感銘を受けたし、そのひとつひとつの過程こそが本書のコアであり、ミステリー部分をおまけというのはいささか言葉が過ぎるような気もしますが、でもわたしにとってはそうとして思えませんでした。


いまさらですが、映画がおもしろいと思えなかったのはそのコアな部分をはき違えていたためではないかと思いました。


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