「リアル・スティール」見たよ


2020年、リングの上でボクシングを繰り広げるのは生身の人間ではなく、遠隔操作された高性能な格闘技ロボットであった。チャンピオンになるため全てを捨ててきたプロボクサーのチャーリー(ヒュー・ジャックマン)は、ロボット格闘技の時代の到来により敗残者も同然であった。ロボット格闘技のプロモーターへ転身したものの、彼の乏しい資金力で手に入るようなロボットは勝てるわけもない。そんな中、離婚して別々に暮らしていた11歳の息子がマックス(ダコタ・ゴヨ)の前に現れる。すれ違う父子だったが、廃工場で旧型ロボット“アダム”を見つけたことから奇跡が巻き起こり…。

『リアル・スティール』作品情報 | cinemacafe.net

MOVIX宇都宮で観てきました。

ビンタしたくなるほどのダメ親父チャーリーが、スーパーできる息子マックスに感化されて父親らしさや自分らしさを取り戻していくというお話でしたがこれがものすごくおもしろかったです。映画観てこんなにテンションがあがったのはひさしぶりです。
マックスたちがステップアップしていくのにつられて徐々にボルテージもあがってしまい、チャーリーたちといっしょになって喜んだりガッツポーズしたくなる瞬間が満載のすてきな作品でした。


さて。
チャーリーは息子を育てることを放棄してロボットボクシング三昧の毎日を送っていた上に、母親が死んだために身寄りがなくなってしまった息子の親権をお金で売り渡すという疑いようのないクズでして、だれかれ構わずお金を無心してまわるところやせっかく高いお金を出して買ったロボットなのに何も考えずに一攫千金を狙って一回でボロボロに壊されてしまうようなそんな彼の適当過ぎる日常は、観ているだけでもイライラしてしまいます。


いくらなんでもこいついい加減さ過ぎるだろ...。


そんなチャーリーへの不快感をわたしと共有してくれたのが彼の息子、マックスでした。
11歳になるマックスは父親であるチャーリーとは一度も会ったことが無く、ずっと母親と暮らしていたのですが母親が亡くなったために一時的にチャーリーの元に身を寄せるのですが、マックスはチャーリーに会ってすぐに*1チャーリーのダメっぷりを目の当たりにすることになります。
自分の親権を売り渡してまで手に入れたロボットを無駄につぶしてしまったチャーリーに「戦略も戦術もなくて勝てるわけがない」と、出来る子らしく正しいことを言ってのけるわけですが、そこはさすがダメ親父というべきかまったくマックスの正論に耳をかたむけようとしません。
まあ、そういう耳に痛い言葉を真摯に受け止められるようだったらここまで凋落しているわけがないので、そこはさすがダメ親父の面目躍如と言ったところでしょうか。


そんな調子でしばらくはチャーリーのダメさ加減にイライラさせられることになりまして、この最初の30分から1時間くらいは結構観ていてつらい時間でした。自分の父親としてのダメなところと被るところがあったせいかも知れませんが、チャーリーへのイライラといたたまれなさみたいな感情がゴチャゴチャと混ざってしまいました。


その後、マックスがふとしたことから「アトム」というロボットと出会い、そのロボットとともにサクセスストーリーを歩むことになるのですが、このロボットを発見してからの展開がすごくおもしろいのです。


そもそも、このアトムというロボットは型落ちのスパーリング用ロボットであって決して強いロボットじゃないんですね。だからアトムの一般的な性能を知る大人たちは試合に出られるようなロボットではないというのは当然知っていて、アトムが試合に勝つどころか、試合の場に立つことすら夢にも思っていないのです。
ドラクエ3でいえば「レベル1のままアッサラームまで行っちゃおう」というくらいの無謀さでしょうから、普通に考えればそりゃ無茶だわと思うのもよくわかります。


ところがマックスは一般的なアトムの性能値なんて知らないし、だからこそ彼は自分の目で見たアトムの能力を信じて戦いの場に立たせようなんてことを思えるのです。彼はアトムの数字の上でのつよさではなく、自分の目で見たアトムの力量を信じてアトムに望みを託すわけです。

そしてもうひとつ。マックスはアトムの試合の最中に、相手の動きを見事に読み切ったチャーリーを目の当たりにして彼のボクサーとしての能力がいまだ十分に高いことも確信し、チャーリーに力を貸してもらえるようお願いしたり最後には大事な試合を託します。


つまりマックスは自分の信じられるものを自分の目で見つけてそれを信じ続けたんですね。
ものすごく単純だけどそのことがすごくいいなと思えてならないんです。


インターネット隆盛のこの時代、ちょっと調べればいろんなものに関する情報は集まってしまいます。
映画や本やゲームがおもしろいかどうか、あのアイドルグループは誰が一番人気があるのか、欲しいモノを一番安く売っているのはどのお店かなんてことが10分もあればすぐにわかってしまいます。


そしてそうやって情報が簡単に集まるようになるとどうなるのかというと、さまざまなものはネットの情報を元に比較されて、どちらがいいのか悪いのかを判断されてしまいます。実際にその人の目で見る前に他者からの情報だけでいろんなことが比較されて優劣をつけられてしまうんです。

データというのはたしかに分かりやすいし大抵の場合においては正しいのですが、でもそうやってすべてが数値化されてその数値の比較だけですべての優劣が決まると思うとそれはすごくさみしいなとわたしは思うんですよね。
もしかしたら数値には現れない何かいいところがあるんじゃないか、そういうところがあって欲しいと思ってしまうのです。


マックスは数値ではなく自分の目を、直感を信じてその正しさを証明していった。
それがわたしはすごく嬉しかったし、その様子が楽しくてとても興奮しながら鑑賞しました。


そうだ。ひとつだけ苦言を呈したいのはこの作品の予告です。
いろんな人に観にきてほしいというのは分かりますし、そのために作品のいいところをたくさん観せたい!っていうのも分かるんですけど、あまりに作品の内容に触れ過ぎてて予告がネタバレ状態なんですよねー。
もちろん内容が分かったからと言って魅力が無くなるような作品ではありませんが、でも次の展開をまったく知らずに観るのとあるていど予想できるくらいの情報をもって観るのとでは観た時に受ける印象ってぜんぜんちがうと思うんですよね。


そのあたりに対する気遣いの無い予告だったと思うので、できればもうちょっと劇場で観る人の楽しみを少しでも残すような配慮が欲しかったです。話題作だったたので、予告を回避するっていう自衛策もなかなか難しかったんですよね...。


とは言え、何度も書きますが、作品自体はたいへんおもしろい文句なしの傑作でした。
マックスがアトムとダンスするシーンはこの冬一番の見どころだと断言します。まさかロボットにロボットダンスさせるとは!!


公式サイトはこちら

*1:観終えてから気付いたのですが、もしかしたらマックスは母親からチャーリーのダメっぷりを聞いててすでにどういう人間なのか知ってたのかもなと思っちゃいました