「モダンタイムス」読んだよ

モダンタイムス(上) (講談社文庫)

モダンタイムス(上) (講談社文庫)

恐妻家のシステムエンジニア渡辺拓海が請け負った仕事は、ある出会い系サイトの仕様変更だった。けれどもそのプログラムには不明な点が多く、発注元すら分からない。そんな中、プロジェクトメンバーの上司や同僚のもとを次々に不幸が襲う。彼らは皆、ある複数のキーワードを同時に検索していたのだった。

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モダンタイムス(下) (講談社文庫)

モダンタイムス(下) (講談社文庫)

5年前の惨事―播磨崎中学校銃乱射事件。奇跡の英雄・永嶋丈は、いまや国会議員として権力を手中にしていた。謎めいた検索ワードは、あの事件の真相を探れと仄めかしているのか?追手はすぐそこまで…大きなシステムに覆われた社会で、幸せを掴むには―問いかけと愉しさの詰まった傑作エンターテイメント。

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いろんな映画の感想にかこつけて、この作品のことを何度も紹介していましたが、肝心の感想を書いていませんでした...。この作品はおもしろいんだけど、どこがおもしろいのか分からなくて2回再読したのですが、まだまだ読みきれていないようなそんな気がしている不思議な作品です。


本作は同著者の「魔王」という作品の50年後を描いた作品でして、いまや当たり前になった「検索」という行為を通じて監視される社会の怖さを描いています。自分が何かを知りたいと思ったときに、人に聞くのではなくインターネットで検索することが当たり前になったことで、その行為を通じて人の行動を監視できるようになった社会のおそろしさがとても伝わってくる作品でした。これは日常的にインターネットにつないでいる人であればひやりとせずにはいられない設定ですし、目のつけどころがすごくいいなと感心させられました。


さらにこの作品をおもしろいと思ったのは以下の2点が描写が優れていた点です。

知りたいという欲求の強さ

よく三大欲求ということで、食欲とか睡眠欲、性欲なんていうのが人間の大きな欲求として挙げられますが、それと同じくらいに強く抑えがたい欲求として「知りたいという欲求」があると思います。テレビを付ければワイドショーが「芸能人の●●は誰と付き合ってる」とか「政治家の××の発言がひどい」とか、生きる上で知らなくてもいいけれど、多くの人が何となく知りたいと思うような下世話な話題で盛り上がっています。


そういったことだけではなく、近くの人たちとうわさ話をしてはいろんな人の本当かどうか分からないような話で盛り上がったりしますし、そういった「本当かどうか分からないことであっても、みんなが知っていることはとにかく知りたい」という気持ちはかなり多くの人がもっている感情じゃないかなと感じたのです。


本作では、そういった「知りたいという欲求」に負けてしまってつい検索をしてしまったがためにひどい目にあわされる人の姿が描かれています。ひどい目にあうかも知れないと知りつつも、知りたいと思って深入りしてしまう人たちの姿からは人間の救いようのなさが垣間見えたような気がしますし、それが人間の本性みたいなもんなんじゃないかなという気もしました。

細分化することで見えなくなるもの

わたしが仕事をしていて一番つらいのは、自分が関わっている仕事の全体を把握できないことと、自分のやっているの仕事が全体のどの部分を担っているのかが分からないことです。やっていることの意味が分からないことほど嫌なことはないと思うのですが、一方で、最近は全体を知らなくてもできる作業単位に仕事を分割してそれぞれを作業者に分担していくという方法が増えてきているとも感じています。


もちろんそれ自体が悪いということではないんですよ。
たとえば「餅は餅屋」という言葉が表すとおり、細分化した仕事についてはそれぞれ得意な人がやる方が効率はいいですし、そのような部分最適の集合として全体最適がなされるのであれば、それがよいことであることは疑いようもありません。

さらに全員が業務全体を把握するというのはさすがに必要ないのかも知れませんし、むしろ知らない方が目の前の作業に没頭できて効率がいいというのもそれはそれで首肯できることではあります。「船頭多くして船山に上る」なんて言葉もあるくらいですから、全体を見渡せる人は多くはいらないというのも分かるんです。


ただ、やっている作業の意味が分からないままやり続けていると、その作業の結果が正しくないものであったとしても気付けないよね?ということが本作で描かれています。
業務を細分化することで作業効率は向上するのかもしれませんが、結果を想像せずに目の前のことをこなしていくことの怖さというのは、もう少し意識してもいいんじゃないの?という主張が本作からは感じられて、なるほどそうだなあなんて思ってしまいました。


あとは細分化され過ぎた結果として、一度でも誰も全体を把握できなくなってしまったらもうそこからは全体を把握できる人はいなくなるんですよね。そうなることの怖さをもっとみんな意識してよ!ということなんですよね。


これ以外にも、蟻のコロニーの話や国という共同体が生き延びることを目的に活動しているという話はなかなか興味深くてこれもとてもおもしろかったです。また暇を見つけて再読したいです。


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