「幸せパズル」見たよ


南米・アルゼンチンの首都ブエノスアイレス。専業主婦のマリア・デル・カルメンは妻として母して家族を支え、20年たったいまも夫に愛され、息子たちも立派に成長した。そんな彼女の日常が、50歳の誕生日にたまたまもらったジグソーパズルで人生が一変! なんと才能が開花してしまったのだ。ある日、地元の売店で「パズル大会のパ−トナ−募集」を目撃した彼女は、家族に内緒でその広告主に会いに行くことに…。

『幸せパズル』作品情報 | cinemacafe.net

(注意)
作品の内容や結末に触れているので未見の方はご注意ください。


宇都宮ヒカリ座で観てきました。


昨年末に「恋の罪」という映画を観たのですが、その中で「ごみを捨てに行ったまま家出をしてしまった主婦」の話が出てきておもしろいなと思ったことを覚えています。

どんな話なのか簡単にまとめると「ごみを捨てに家を出た主婦が、目の前で走り去られた収集車を追いかけているうちに見知らぬ場所にたどり着いてしまい、そのまま家出をしてしまう」という話です。
この女性はずっとその場所に住んでいたのでそのあたりのことは知っているつもりだったのですが、普段と少しはずれているだけでまったく知らない場所があることを知り、「自分はいったいいままで何をしてたんだ」とショックを受けるわけです。


これは家庭や狭い人間関係におしこめられがちな専業主婦をモチーフにした話なのですが、自分の視野が狭いことに気づく瞬間というのは多くの人が思い当たることじゃないかと思います。


本作は家族や親族との関係の中だけで生きてきた女性が、パズルにハマってしまい、その生き方を大きく変えていくお話なのですが、観ながら上で書いた話を思い出してしまいました。


本作の主人公マリアは、結婚してから50歳になるまでの長い時間を家族との関係や家のことだけがで構成された世界を生きてきました。旦那のことを甲斐甲斐しく支え、二人の息子たちのことも大きくなるまで育て上げてきたことは、彼女と彼らのやり取りを見れば一目瞭然です。

さらに、マリアは自分の誕生日なのに自分が楽しむことそっちのけで家族やゲストをもてなそうと準備にいそしんでいる姿をみれば、彼女がどれだけの時間を家族のために捧げてきたのが自然と伝わってくるのです。


そんな50歳という年齢を迎えた誕生日に偶然出会ったパズル。
そのパズルにハマってしまったことで、マリアは自分自身が心から楽しめるものを見つけ、それにのめり込んでいくのです。最初は空いた時間にちょこちょことやる程度でしたが、いつしか寝る時間を削ってまで没頭するようになってしまったのです。


さらに「自分はパズルが得意なんだ」という自信をもったことをきっかけにマリアは同好の士を求め、そして会っていっしょにパズルを楽しむようになるのです。つまりマリアはパズルをきっかけに自らの世界を広げていくのですが、それを観てすごくわかるなーとものすごく共感をおぼえたのです。


人には自分に見えていた世界の外側にもっとおもしろい世界があると気付く瞬間があります。

わたしにとって、それは映画やブログとの出会いでした。

わたしは30歳になる前までは、本とゲームとあとは仕事くらいしかやることがなかったのですが、ある日映画を観始めたことをきっかけに世の中に転がっているたくさんのことに興味をもつようになりました。
地理や歴史といったことにもかなり興味が出てきたし、映画を通して知り合った人もかなり増えました。人見知り選手権があれば栃木県大会でベスト16には入れそうなくらいの人見知りだったわたしがこんなに多くの人と会えたのは、まちがいなく映画を好きになったおかげです。


では、マリアがパズルを見つけたように、そしてわたしが映画を観ることに楽しみを見出したように「いまいる場所以外に新たな居場所を見つける」というのは、偶然なのかというと違うよねとわたしは思うんですよ。
現状に極度の閉塞感をおぼえて「いまいる場所以外の居場所」を渇望しているからこそ、こういったことを見つけられるような気がするんです。


マリアは「家族への不満」、そしてわたしは「仕事ばかりで楽しみをもてない自分への不満」が欲求の根源だったんでしょうが、現状の延長線上にないあたらしい居場所を求める気持ちがそういう出会いを生むんだなとこの作品を観ながら感じました。


そんなわけで作品全体の流れは概ね分かるなと思えるものでしたが、細かい部分もまたすごく芸が細かいというか、「あるある」と思えるところが多くて本当に感心させられっぱなしでした。

全体にも細部にも共感がつまったすばらしい作品でした。


ただマリアが最後に見せたあの表情は、彼女の犯した過ちへの後悔なのか、それとも新しい世界に踏み出す覚悟なのかが分からなくて観終えてからもずっとモヤモヤと考え込んでしまいました。ラストの投げっぱなしっぷりはちょっとずるい!


(追記)
そういえば、この作品の中でマリアが夫婦でセックスをするシーンが何度かあったのですが、50歳を過ぎてなお盛んな様子にちょっと驚いてしまいました。一般的な夫婦っていったい何歳くらいまでセックスするんだろう...と思ってしまいました。


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