「モテキ」見たよ


派遣社員を卒業し、晴れてニュースサイトのライター職として正社員になった藤本幸世(森山未來)。波乱の“モテキ”を経て成長したかに見えたが、結局未だ新しい出会いもないまま。しかし、ある日突然“第二のモテキ”が訪れる。年下の雑誌編集者・松尾美由紀(長澤まさみ)、美由紀の親友で清楚系OLの桝本留未子(麻生久美子)、ガールズバーの美人店員・愛(仲里依紗)、毒舌のSキャラ先輩・唐木素子(真木よう子)など全くタイプの異なる4人の美女の間で揺れ動く幸世。果たして、幸世はモテキの波を越えて本当の恋愛にたどり着けるのか…?

『モテキ』作品情報 | cinemacafe.net

(注意)
作品の内容に触れている部分がありますので、未見の方はご注意ください。


TOHOシネマズ宇都宮にて。


原作未読+ドラマも未見という状況で観てきましたが、予備知識なしでまったく問題なく鑑賞出来ましたし大変おもしろかったです。作品としては大嫌いな部類に入るのですが、完成度という点においてはいままでに観た邦画の中でも突出して高かったです。あまりにひとつの作品として完成されていたので、まるで完全な球体を目の当たりにした時のようなほわほわとした幸せな気分になりました。
ただ、映画としての完成度は高いことは認めた上でそれでもどうしてもこの作品のことは好きにはなれなくて、まるで「ブラック・スワン」や「冷たい熱帯魚」と似たような印象を受けたのでした。


さて。
話はちょっと変わりますが、普段から映画を観る上で心がけているのは「常に肯定的な態度で映画を観ること」です。
先入観なしのまっさらな気分で観るのが一番いいのかも知れませんが、「どんな映画にも楽しめる見方がある」ということを信念としているので、お金を払った分は楽しもうと思っているのです。だってせっかくお金払って観てるのにつまらないと思って過ごすのももったいないですし、実際にどんな作品にも一定の支持者というのはおりまして満場一致でつまらないと言われる作品というのは少なくとも商用作品ではほとんどありません。楽しめないのは作品のせいだけではなく、観る側の問題である場合もあるわけです。
もちろん、そんな覚悟をあっさりと吹っ飛ばしてしまうような強力な地雷もたまにありますが*1、でも基本路線としてはそんな考えですので、とりあえずは否定的な目を向けないように心がけています。


ところが、今回この「モテキ」を観るにあたり初めてそのおきてを破り、最初から批判的な目をこの作品に向けて観ることにしたのです。


なぜそうしようと思ったのかをうまく説明するのは大変難しいのですが、簡単に言うとこの作品の予告やポスター、CM、あとはあらすじを読んで知ったおおよそのストーリーなど事前に仕入れたありとあらゆる情報がぜんぶ気に入らなかったんです。特にポスターに対する嫌悪感はかなり激しく、主演級の女性陣4人全員のことが大好きなのにあのポスターは直視できませんでした。もう目に入っただけでムカムカしてくるんです。
当然ポスターの意図は分かるんですよ。女性にモテるという状況をお祭り騒ぎのような絵で表そうというのは分かるんですが、あの色彩や構図がもうなんていうか不愉快なんです。嫌。


そんなわけで「肯定的な視点を全部かなぐり捨てて観て散々に貶してやろう」という黒い気持ちで観始めたのですが、観ているうちにそういう黒い気持ちは雲散してしまいました。"いい作品"という表現が適切かどうか自信がありませんが、サービス精神旺盛で観ている人を楽しませようという意識がすごく感じられたし、各シーンの演出というか見せ方がとにかくうまいんです。好き嫌いは別としても、この作品が手が込んでいて優れた作品であることは嫌でも伝わってきたのです。


そんな中でも一番感心させられたのは、幸世(森山未來)の思考・行動パターンが異様に説得力をもっていたことです。よく言えばリアリティがあると言えるし悪く言えば生々し過ぎるとも言えるのですが、もうまったくといっていいほど幸世の行動には違和感をおぼえるところがなかったのです。


そして同じように感心させられたのがtwitterの使い方。これがもうものすごくうまい。
例えば、アイコンで性別を勘違いしてしまうところやフォローしている人の中にリアルな人間関係が入り込んでくることで知らずに済んだはずのことも想像出来てしまうところ、あとは一緒にいるけど何となく話しにくくて言いたいことをツイートしてしまうところなど、明らかにtwitterを使い慣れた人かもしくはそういう人を長く観察している人が制作側にいることを容易に想像させるのです。


こういった数々のリアリティを生み出している脚本や演出はすごいなーと感心した反面、そういうシーンほど痛々しくて観ていられない恥ずかしいシーンばかりだったのです。どのくらい恥ずかしいのかというと、あまりに恥ずかしくてそういうシーンでは半目になって観てしまうほどです。
わたしは映画や漫画におけるリアルな描写というのは賛辞の対象になると思っていたのですが、あまりにリアル過ぎると羞恥心をくすぐるということをこの作品で身をもって知りました。最初の方は「うわー、リアルだなー」と観てたのですが、最後は羞恥プレイかと思うくらい恥ずかしさで身を震わせながら鑑賞しました。
自分が幸世とまったく同じようなことをしているとか、性格がすごく似ているというわけではないんですが、リアル過ぎるとこういう気分になるのか...と不思議でなりませんでした。


そんなわけで好きだとはとても言えないのですが、でも映画としては抜群におもしろくて最後まで目が離せませんでした。人間的に好きになれない異性とのセックスが気持ちよかった時のような気分ってこんな感じかも知れません(そんな経験はありませんが)。


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