「瞬 またたき」見たよ


美大生の淳一(岡田将生)と泉美(北川景子)は恋人同士。幸せな日々は、いつまでも続くはずだった―。ある日、バイクで花見に出かけた帰り、トラックとの衝突事故に遭い、 泉美だけが助かることに。愛する人を失くしただけでなく、そのショックから事故当時の記憶までも失ってしまう泉美。なぜ自分だけが無傷で助かったのか? あのとき、何が起こっていたのか…? 一人残された苦しみと闘いながらも、弁護士・真希子(大塚寧々)との出会いをきっかけに、愛する人との最後の記憶を取り戻そうと、“空白の10分間”という事故の真相を辿っていく。そこには想像を絶するほどの事実と、極限状態の中で2人の本能的な行動が生んだ衝撃の “愛のカタチ”があった。

『瞬 またたき』作品情報 | cinemacafe.net

(注意)
このエントリーにはストーリー展開に関するコメントやラストに関する言及がありますし、またこの映画が好きな方にはあまり嬉しくないことも書いています。読む際にはそのあたりをご了承いただいた上でお願いします。

      • -

TOHOシネマズ宇都宮にて。
まず最初に書いておかなければならないのは、この作品に出ている俳優、女優の多くがわたしの大好き人たちであるということと、だから彼ら・彼女らの出演作は結構たくさん観ているということ、そしてそんな出演者たちに強い思い入れのあるわたしでもこの作品は決定的に観るべきところが無くてまったく楽しめなかったということです。


展開に何の説得力も感じられないストーリーと、登場人物を立体的・魅力的に見せようという気持ちがまったく感じられない演出の数々。
前者は原作未読なので何とも言えませんが、後者は本当にひどくて本番前の練習シーンを使ってるんじゃないかと疑ってしまうレベルの絵やシーンが多くて本当にうんざりしました。じゃあ出てる人たちの演技が下手なのかと言えば過去の出演作を観る限りでは必ずしもそうとは言えませんし、ではなぜこの作品ではそう見えるのかと考えると演出や編集がよくないんじゃないの?と思ってしまうわけです*1
これだけわたしの好きな人がキャスティングされているのにまったく楽しめないというのは、絶対に何かがおかしいです。何がおかしいのかまでは断言できませんが、おかしいということだけは言い切れます。話の筋だけ取って見てももっと面白く出来たはずだし、それだけのポテンシャルは絶対にあったんじゃないかとは感じます。


これ、個人的には2010年上半期のワースト作品候補です。6月も残り一週間しかないので時期的にはこれで決定っぽいですが、出ている人たちにはすごく思い入れがあるだけにちょっと残念です。
ただ、地雷好きのわたしも、さすがにこれを観ようという人がもしいたら別の映画を観ることをお奨めするくらい本当におもしろくなかったのでしょうがないな...。


以下ネタバレ込みの感想です。(読む人は「続きを読む」をクリックしてください)



まずはストーリーの全容をざっくり書いちゃいます。


淳一のバイクの後部座席に乗っていた泉美はトラックと正面衝突するという大きな交通事故にあいます。淳一は死に、泉美は大怪我を負って事故当時の記憶が無いものの何とか一命は取り留めます。事故と淳一を失ったショックで精神科に通う泉美は、日々悪夢にうなされているのは自分が本当はその記憶をもっているけど抑圧しているのではないかという疑いを持つようになります。そして彼女はその失われている事故直後の記憶を取り戻したいと願うようになります。そしてある日、精神科で弁護士の真希子と偶然出会うのですが、泉美は彼女に事故の真相を探ってもらおうと事務所に通ったり彼女が仕事を終えるのを待ち構えるようになります。その泉美の熱意に押される形で事故の真相を調べることに出来る範囲で協力することを約束した真希子はその日から事故のことを調査し始めます。
真希子の助力もあって病院や警察で事件の様子を聞いたり、事故現場の写真を見るうちに泉美は断片的にさまざまなことを思い出し始めます。そして真希子と一緒に事故現場を訪れたことでやっとすべてを思い出すのです。


トンネルの出口でトラックに衝突する直前。淳一は後部座席の泉美をかばって*2事故で致命的な怪我を負ったのです。事故の後に目覚めた泉美が目にしたのは血だらけで右手の指3本を切断されてしまった淳一の姿。美大に通っていて絵を描くことが大好きだった淳一のことを思い、半狂乱になって這いつくばりながら指を探し回る泉美。切断された3本の指を集めたものの、くっつけることが出来ず泣き崩れる泉美。そんな中、淳一の流血がひどくなってきたのでハンカチで手当てをするものの血は止まることなく、その様子を見ながら泉美は気を失うのです。


その後、淳一の母親から届いた手紙をきっかけに泉美は彼の生家のある島根に行ってそこで淳一と最後の別れをしておしまい。
# ちなみに赤い文字のところが泉美が忘れていた部分です


こうやってまとめてみると話としては悪くないしすごくおもしろくなりそうな空気はあります。でも現実には映画としては全然そこまでの作品にはなっていなかったんですよ。それが今思っても不思議でならないし、残念でなりません。
わたしはひとつの物語が語られる上ですごく大事だと思っているのは、作品全体をとおして一本の線が存在することです。作品を介して伝えたいこと、作品をとおして見せたい世界、そういった一番中心になる何かがあることがとても大事だと思っています。でももしかしたらこの原作にはそれがあるのかも知れませんが、この映画からはそういう何かがまったく見えなかった。もう決定的なくらい何も感じなかったのです。わたしは落ち込んだ人が立ち直るプロセスにとても興味があるのですが、まさにそのプロセスをこの作品は見せてくれていたことにもいま気付かされたくらい、作品として語りたいことが明確になっていなかったと感じています*3


主張したいことは何か?という部分を差し置いて、ただ文字を絵に置き換えたのがこの作品が楽しくなかった根本的な理由ではないかというのがわたしの出した結論です。どんなつまらない作品でも「この絵が撮りたい」とか「この話を映画にしてみたい」という気持ちがあれば、ここまで楽しくない作品にはならないんじゃないかな。


公式サイトはこちら

*1:逆の見方もあるのでしょうがそこはとりあえず置いておきます

*2:絵的にはずいぶんと無理があったのですが淳一が後部座席にいる泉美を抱きかかえるようにして背中からトラックに衝突していました

*3:もちろんこれは撮る側だけではなく観る側のわたしの問題でもあります