「上京ものがたり」見たよ


美大に通うため、田舎から東京に出てきた菜都美(北乃きい)。憧れていた東京での暮らしは、家賃を払うのに精一杯で極貧の毎日。ある日、美大の友達から時給のいいバイトとして紹介された先はキャバクラ。慣れない水商売を始めた菜都美は、店で良介(池松壮亮)と出会い、一緒に暮らし始める。子供の頃から大好きだった絵も、美大での成績は最下位で、上京したことを後悔し始めていたある日、キャバクラの先輩ホステス、吹雪(瀬戸朝香)と娘の沙希(谷花音)が、菜都美の絵を好きだと言ってくれたのだ。吹雪の「最下位には最下位の戦い方があると思う」という言葉に勇気づけられた菜都美は、自分なりの戦い方で絵の道に進むことを決心するが…。

『上京ものがたり』作品情報 | cinemacafe.net

TOHOシネマズ宇都宮で観てきました。

西原理恵子さん原作の映画で一番好きな作品はなにかというと、1秒と迷わず答えられるくらい「女の子ものがたり」が大好きです。


女の子ものがたり [DVD]

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漫画を書くことを生業としている女性が、何となく煮詰まった日々を送る中で自らの幼いころを振り返りながら自身の立ち位置を確認するというお話ですがこれがもう本当にすばらしい作品でした。相手の生活レベルなんてまったく気にせずに、相手の魅力だけをたよりに惹かれあって友人関係を作り上げる小学生のシンプルな行動が描かれてとてもリアリティがあると感じたし、その友人関係が年齢の変化とともほころびをみせていくところには強烈なシンパシ―をおぼえました。

本作はその前日譚にあたる作品であり、絵の世界で生きて行くことを志して上京した女の子が紆余曲折を経て自らの居場所を見つけるまでを描いています。上でも書いたとおり、わたしは「女の子ものがたり」が大好きでしたし、この作品も前作*1と同じく森岡監督が撮られるということでかなり楽しみにしていたので公開してすぐに観に行ってきました。


冒頭、北乃きい演じる菜都美が上京して一人暮らしを始めるのですがこのあたりの「初めての一人暮らし」感はひじょうにうまいなと思いました。

生活費を自分でやりくりしなければならないという緊張感や見知った人が誰もいない場所で過ごす日々のさみしさ。

わたしは東京近郊に移り住んだことはないのですが、大学に進学して初めて一人暮らしをしたときにおぼえたあの何とも言えない感覚を、このわずか30分ほどの映像でみごとに呼び覚ましてくれました。徐々に人間関係が構築されていくところなんかもすごく丁寧に描かれていて「これは前作以上の作品かも!」と思って観ていました。

ところが中盤以降は物語にまったく面白味や共感を感じる部分はなく、見どころらしき見どころもないまま終わってしまいました。

途中まではすごく楽しく観ていたのに...。


観終えてからずっと何が良くなかったんだろう?と考えていました。

他の人からは「人の死で泣かせようという演出がダメなんだ」「結局は成功した人の話だからそうじゃない人は楽しめないんだ」という意見を聞いてなるほどと思いましたが、でもわたしは物語の内容そのものや演出についてはそんなにダメだったとは思いませんでした。ストーリーが原作ありきなのは前作も同じですし、その原作は大好きだった前作と地続きになっているわけですからストーリーがよくない==原作がよくないというのはちょっと違うのかなと。


そうやってひとつひとつ面白くなかった可能性をつぶした結果、物語が時間軸に対してまったく立体的にはなっていなくてすごく薄っぺらいと感じたからではないかという結論に達しました。前作は小学生のときから高校を卒業するまで、そして、36歳で漫画家として生きているというところまでを描いていたために時間軸方向にかなりの厚みをもっていましたし、そのことが物語を立体的に感じさせてくれていました。

ところが、今作は高校を卒業して大学に入って働き始めるまでという短期間に物語が集約されていて時間的には非常にコンパクトになっていました。そのため、前作のような立体的な魅力が感じられなかったのではないかなと。もちろんすべての作品にそういった立体性があるべきとは言いませんが、この作品のようにある人の人生を描くのであれば、ある程度長い時間の変遷を描いた方がいいと思うし、それをしなかったことでこの作品で描かれている一人の女性の生き方に相応の説得力が与えられなかったなと。


ではどうすればよかったのかというと、それは前作をもっと有効に使えばよかったんじゃないかと思います。
時間軸上ではこの作品を包括するように描いた前作の存在があるわけですからそれを活用して欲しかったなと思うし、ほぼ前作とは無関係な作品として描いたことが一番のざんねんポイントかなと。
そういう意味ではキャストも前作からほぼほぼ変えてしまったのがざんねんでならないです。


それなりに楽しく鑑賞しましたが、でも期待が大きかったので「期待どおりだった!」と言えるほどではありませんでした。おもしろくないわけではないけど...っていう感じでした。この作品がおもしろくないというよりも前作が良過ぎたんだよなー。


公式サイトはこちら

*1:原作が出たのは「上京ものがたり」の方が早いのでむしろ「女の子ものがたり」の方が続編にあたるのですが、映画化されたのと物語の順番的にはこちらが続編になるのであえてこの表現にしています