「一瞬の光」読んだよ

一瞬の光 (角川文庫)

一瞬の光 (角川文庫)

橋田浩介は一流企業に勤めるエリートサラリーマン。38歳という異例の若さで人事課長に抜擢され、社長派の中核として忙しい毎日を送っていた。そんなある日、彼はトラウマを抱えた短大生の香折と出会い、その陰うつな過去と傷ついた魂に心を動かされ、彼女から目が離せなくなる。派閥間の争いや陰謀、信じていた人の裏切りですべてを失う中、浩介は香折の中に家族や恋人を超えた愛の形を見出していく。

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何でもそうだというつもりはありませんが、大人になると欲しいと思ったものを得ることはそんなに難しくなくなります。
欲しいものを手にするために必要なもの(お金とか時間とかいろいろ)は何なのかということを考えて、それは得るための努力をひとつひとつこなしていけば大体のものは手に入ります。旅行に行きたければ時間を作ればいいし、車とか家みたいな金額の張るものが欲しいんだったらローンを組んで買えばいいのです。出世したければ仕事に割く時間を増やして人のやらないことをやればいいし、会社を興したければ手続きを踏めばそれも出来ます。
もちろんすべてが出来るわけではないし、そもそもすべての欲求が満たされることがいいことだとはわたしは思わないけれど、でもお金と時間を使えば大抵のやりたいことは出来るわけで、本気で望めば手に入らないものってそんなに無いよねとわたしは思っています。


ところが、大人になると何でも手に入るようになって嬉しい反面、あれもこれもとあちこちに手を出し過ぎてしまうことがあります。あれも欲しい、これもやりたい。気付けば自分の手に余るくらいたくさんのものを手にしてしまっていて、いったいどれが一番大事なものなのかということが分からなくなってしまいます。


これとは対照的に、子どもというのはとてもおもしろいもので、いつも自分にとって一番大事なものを握り締めています。
もちろんあれもこれもと欲しがりはしますが、でも彼ら/彼女らは自分たちの手が大きくないことを知っているために最後には必ず一番大事なものを選び取ってその手におさめているのです。わたしはそういう姿を見るたびに、自分がいろんなものを手にしてしまったことを思い知らされます。


本作は仕事に打ち込んで多くのもの(お金や権力)を若くして手にして一人の男性が、それらを失いかけて初めて自分にとって一番何が大切なのかを考え直すという物語です。率直に言って、主人公の橋田の気持ちはわたしにはまったく分かりませんでしたが、それでも周囲から見たら理解できないと思われようと自らの気持ちに素直になることの大事さはすごく伝わってきました。
損得勘定も時には必要ですが、それとは別に、自分の気持ちと向き合って今一番何を自分は望んでいるのかと向き合ってみようと思える作品でした。いい作品!


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