「ハーモニー 心をつなぐ歌」見たよ


女囚でありながらも子供を出産し育てるジョンヘ。しかし18か月後には子供を養子に出さなければならなかった。ある日、刑務所に合唱団が訪れ慰問講演を開催することに。その合唱を聴いたジョンヘは感動し、刑務所で有志を集め合唱団を結成。誰もが心の傷を抱えながらも「歌」によって希望を見出していこうとする。

『ハーモニー 心をつなぐ歌』作品情報 | cinemacafe.net

宇都宮ヒカリ座にて。


わたしは以前から「死刑制度や更生とはなんなのか?」ということに対して強い興味をもっています。
"他人の命を奪ったら相応に命を奪われるべき"だと考えていたわたしからすれば、「なぜ人ひとりの命を奪っても死刑にならないのか?」「人を殺すような輩を本当の意味で更生させることなんて出来るのかどうか?」というのはいつも大きな疑問でした。


なので、死刑囚を含む犯罪者を題材にした映画が観られるということで楽しみにしていましたが、率直に言って観終えてもわたしの中には何も残らなかった作品でした。国や性別の違いというよりも、映画が訴求したかった点がわたしの求めているものと違っていたということが原因だと思います。
犯罪者も生きている以上は変化やモチベーションを保つためのハリが欲しいというのは分かるし、そもそも一人の人間なんだというのも分かるんですよ。もちろん自分がそうなったことがなければ周りに該当する人がいるわけではないので、もしかしたらわかってるつもりなだけかも知れませんが、でも知識としては知ってるし理解してるつもりです。


でも、それらすべてを"大事な人を奪われた側"である遺族から見て必要なものだと思えるのかどうか?と考えた時に、わたしにはどれひとつ必要だとは思えないことばかりなのです。
そして他人の生きる権利を侵した人でも与えられる人権っていったいなんなんだろうと考えてしまうのです。


遺族は大事な人の欠落に胸を痛めて生きているのに、殺した側は生きる権利を守られる。
もし自分の大事な人が奪われて遺族の立場に立ってしまったときのことを考えると、これを矛盾と感じずに納得することは出来ないだろうことは容易に想像できます。人を殺した人間の生きる権利が守られるという道理をわたしはきっと受け入れられませんし、それはこの映画を観る前も後も考えとしては変わりませんでした。


冤罪の可能性を考慮して死刑はすべきではないという意見もわかります。たしかに冤罪の可能性ゼロではありませんし、きっと冤罪が無くなることは未来永劫ありえないでしょう。それはわたしもよくわかります。
でももしわたしが遺族の立場であれば「冤罪の可能性があるからなんなの?」と言うでしょう。そんなのはどうでもいいんです。


きっと自分が納得できる唯一の言葉は「復讐の連鎖はどこかで断ち切らねばならない」ですが、自分が被害に会ったときにも同じ言葉を口にできるかどうか正直自信はありません。やっぱり許せないような気がするんです。


ずいぶんと話が暴走してしまいましたが、結局この映画を観て感じたのは加害者も人間であるということでした。
たしかにそれは間違っていませんし、正直そこが一番軽視されている部分であるとも思います。加害者やその家族に対する冷たい視線や仕打ちというのは、時に過剰なくらいに攻撃的であることも少なくないことはよく知られています。


例えば、2年前に公開された「誰も守ってくれない」という映画では加害者家族に対する世間からの攻撃のひどさが描かれていましたが、実際にはあんな生ぬるいもんじゃないと聞いたことがあります。同じく、犯罪加害者の末路を描いた「BOY A」という作品でも、殺人を犯した人間というだけで周囲の態度が一気に変わる様子が描かれていて、自分が加害者の立場だったら...と思うと身の凍る想いで観ました。


たった一度の過ちで人生がめちゃくちゃになる様子を見ているとたしかに気の毒な気もするのですが、でも実際にこれってしょうがないことでもあると思うのです。被害者は人生がめちゃくちゃどころか生きることそのものを断たれているわけですから、他人から人生を奪った人間がまっとうに生きようとすること自体が間違ってるんじゃないかと考えてみたりするのです。


この作品のように加害者側の立場を示す作品があってもよいと思うし、実際にこの作品を観て死刑制度に反対しようという人が出てくるのも悪いことではないと思います。一番よくないのは誰からも興味をもたれずに現状維持が続くことですから、どういう方向であれ、死刑制度に対する興味を煽ってくれるのはいいことだと思います。


ただこの作品を観ても、わたしは加害者に人間らしい生活が必要だとはどうしても思えなかったし、加害者が更生しようがしまいがいったい何がいいのかを理解して受け止めることは出来ませんでした。正直、犯罪加害者をいい人のように描くのは気持ち悪いし止めて欲しいと感じたし、子どもと母親という構図をつかって過剰に加害者を普通のいい人のように描いているように感じられて不愉快に感じました。


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