- 作者: 三崎亜記
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/11/20
- メディア: 文庫
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今、「バスジャック」がブームである―。バスジャックが娯楽として認知されて、様式美を備えるようになった不条理な社会を描く表題作。回覧板で知らされた謎の設備「二階扉」を設置しようと奮闘する男を描く「二階扉をつけてください」、大切な存在との別れを抒情豊かに描く「送りの夏」など、著者の才能を証明する七つの物語。
http://www.amazon.co.jp/dp/4087463680
現実世界のようでもあり、でもどこか決定的なところでわずかに現実とは異なる不思議な世界の日常を描いた7つの短編集なのですが、かなり好き嫌いがはっきりと分かれてしまった作品でした。「動物園」と「送りの夏」は舞台設定も描写もよくてすごく好きなのですが、それ以外の作品はあまりに恥ずかしくて赤面しそうになりながら読みました。
なんで、単に読んでいるだけのわたしが恥ずかしいと感じるのかといいますと、この文章が受け狙い、もしくはちょっとシュールにしてみましたみたいな書き手の意思が透けて見える文章だからなのです。もう見え見えなんですよ、これがまた。
わたしにはそう感じられてしょうがないのです。
わたし自身が、よくこういうことを書いたり言ってしまうような人間なので、受け手にこう反応して欲しいという意図が見え見えの言葉や文章というのは同属嫌悪とでも言うんでしょうか、どうしても目を背けたくなるんです。これはもうアレルギーのようなもので、好きとか嫌いという次元では決して語れない、もう30年間生きてきて積み重ねてきた結果であり、体質なのです。
そういえば、著者の三崎さんの代表作である「となり町戦争」は世間的にはかなり評判がよいようなのですが、わたしはあまり好きではなくてこれを読んだ当時もひどくイライラさせられました。まあそういうことなんだと思います*1。
とまあ、散々ネガティブなことを書いてしまいましたが、上述のとおり、「動物園」と「送りの夏」は非常によかったです。
「動物園」は、動物になりきることを生業としている人間の数日を描いているだけなのですが、いかにもそういう職業がありそうな雰囲気が感じられて楽しく読めました。
また、「送りの夏」は、大事な人を失った人々がその事実を受け入れるために大事な人の喪失と向き合ったり目を背けたりしながらと日々を生きる様子を描いているのですが、そんな日常とはかけ離れた出来事も自然と受け入れてしまう子どもの寛容さがとてもうまく描かれていてとてもグッときました。そして失ってしまった大事な人との本当の別れのシーンでは、お盆の送り火や灯篭流しといった風景を想起させられて夏の終わりの匂いがただよってくるようでした。
ひと夏で大きく成長する子どもの様子に、「夏の庭」と同じ空気を感じずにはいられませんでした。
上記のラスト2編が非常によかったので、何となくすごくおもしろかったような印象が残る本でした。
*1:どういうことなんだろう