「しあわせのパン」見たよ


北海道の月浦、湖が見渡せる丘の上にあるパンカフェ「マーニ」では、東京から来た夫婦、水縞くんとりえさんが自家製パンや淹れたてコーヒーを出してくれる。それを目当てに来るお客様は、北海道から出られない青年トキオ、口をきかない少女未久とパパ、沖縄旅行をすっぽかされた傷心のカオリ、そして、想い出の地に再びやってきた老人とその妻、など様々。個々に想いを抱えて訪れる彼らの“しあわせ”とは。りえさんと水縞くんに訪れることとは。

『しあわせのパン』作品情報 | cinemacafe.net

TOHOシネマズ宇都宮でマコ*1と観てきました。


北海道の表情豊かな風景と、東京から引っ越してきた夫婦が営むカフェを舞台にしたひとびとの姿があざやかに描かれたすてきな作品でした。予告映像にも映し出されていたおいしそうな焼きたてのパンは作中ではもっとおいしそうに見えたし、ただおいしいものを提供するだけでなくふれあいや温もりまでも提供するカフェとそこに集まるひとたちの様子がとても心にしみました。


現実と空想のはざまに漂うようなつかみどころのない世界観はまるで絵本の中のお話のようでして、現代の寓話ともいえるような奥深さをたずさえた暖かくも切ない作品でした。
映像面でのすばらしさが光る作品でしたが、それ以上に構成や演出、ストーリーがすごく気に入りました。


本作は四季によって章の異なる四部構成になっており、その季節ごとに異なる人たちがお客さんとしてカフェを訪れます。そしてその人たちの生きる道を変えたり指し示すできごとがカフェを舞台に綴られていくのですが、本作のすばらしいところは四季と人生の対比を見事に描いている点なのです。


話は少しずれてしまいますが、わたしは昔から青春時代と呼ばれる10代から20代の人を描いた映画や本が大好きで、そういったものがあればすぐに手を出していました。ところがある日ふと「なんでこの時期のことをっていうんだろう?」と不思議に思って調べたことがあります。


当時参考にしたサイトは見つかりませんでしたが、いつも読んでいるブログで簡単にまとめられていました。

 でもま、なぜ「青」なのかというと、人生を四季に例えると、若い時代は「春」で、春は陰陽五行の考え方では「青」になるから、それをくっつけて「青春」。じゃ「夏」はというと「赤」だから赤夏、じゃなくて朱夏。朱に交わるわけよ。同様にお次が「白秋」、そして「玄冬」となる。

[書評]男はなぜ急に女にフラれるのか?(姫野友美): 極東ブログ


つまり、人生を四つの時期に分けて四季と対応させて「青春」「朱夏」「白秋」「玄冬」と呼んでいるそうです。じゃあ、具体的に何歳から何歳と対応付けているの?というとこれまた諸説あるようですが、概ねこんな感じになるようです。

季節 年齢範囲
青春 〜20歳
朱夏 20歳〜35歳
白秋 35歳〜50歳
玄冬 50歳〜


寿命がのびてきている現状においてはもうちょっとこの範囲も変わるかも知れません。


話がそれてしまいましたが、本作は北海道らしくくっきりとした輪郭をもつ四季とカフェに訪れるお客の年齢を一致させて描くことで、人が生きていくさなかである年齢、年代でぶつかることの多い悩みや問題を四季の移ろいの中に投影してみせてくれたのです。


さらに月の満ち欠けを使ってその人の心の状況もうまく表現していて、その表現の繊細さに感心しきりでした。


この作品を観ていたら、人にとって本当に大事なものって実はそんなにないんじゃないかという気がしてきて、そんな大事なものをわたしはないがしろにしているんじゃないかとか、そもそも何が自分にとって一番大事なのか考えなきゃいけないんじゃないかとかいろいろと考えずにはいられませんでした。



たいへんすばらしい作品でしたのでいろいろと好きなシーンはあるのですが、とりわけ気に入ったのは大泉洋さん演じる水縞くんがパンを焼いているかまどを覗くシーンです。小さな小窓のようなところを開けて中の様子をチラリとのぞきこむ姿が映し出されているのですが、その様子はまるで水縞くんが絵本に出てくるマーニが月を優しく見守るように、りえさん(原田知世)のことを見守っているようなそんな暖かさを感じさせて思わずウルウルとしてしまいそうになったのでした。

水縞くんみたいな旦那さんをもった人は幸せだよなー。


ひとりで観ても十分たのしめる作品だと思いますが、大事なひとといっしょに観てこの作品を共有できたらもっとたのしめるしすてきな思い出に残るんじゃないかなと思います。普段はだれかといっしょに映画を観ることはあまりないのですが、この作品はマコといっしょに観ることができてよかったなと感じました。


大事なひとといっしょに並んで座って観て欲しい作品です。
これはほんとうによかった。


公式サイトはこちら

*1: