ポプラの秋


ポプラの秋 (新潮文庫)

ポプラの秋 (新潮文庫)

夫を失ったばかりで虚ろな母と、もうじき7歳の私。二人は夏の昼下がり、ポプラの木に招き寄せられるように、あるアパートに引っ越した。不気味で近寄り難い大家のおばあさんは、ふと私に奇妙な話を持ちかけた―。18年後の秋、お葬式に向かう私の胸に、約束を守ってくれたおばあさんや隣人たちとの歳月が鮮やかに甦る。世界で高い評価を得た『夏の庭』の著者が贈る文庫書下ろし。

http://www.amazon.jp/dp/4101315124


ここでも何度も取り上げたことがありますが、湯本さんの著書のタイトルには季節を含んでいる作品が3つあります。
その3作品に共通しているテーマが、「老人と子どものふれあい*1」と「作品に季節の匂いをとてもうまく織り込んでいる」という点です。


「春のオルガン」は、無口で頑固な祖父が大嫌いだったトモミが祖父の意外な一面に触れることで苦手意識がなくなって理解しあえる仲になっていく過程がとても面白いし、中学校で周囲になじめるかどうかという不安一辺倒な心境が徐々に期待をはらんでいく様子が新しい環境へ踏み込む季節である春を感じさせます。



「夏の庭」は男子のひと夏の成長という言葉に尽きます。
10代の頃って、夏休みが終わって久しぶりに友達に会うと、何だか夏休み前とは別人なんじゃないかと感じることがよくありました。日焼けしたとか背が伸びたとか、そういう外見ではない何かがなんとなく違うような違和感。
読みはじめに感じた3人の印象と最後の3人の印象の違いはまさにそれなのです。そういうところがすごく夏っぽい。



で、最後はこの「ポプラの秋」なのですが、秋といえばノスタルジックな気分に浸ったりふとしたことに感傷的になってしまうことの多い季節です。緑だった葉が徐々に色づき始め、気付けばその色づいた葉すら落ちて何もなくなってしまったりするわけです。もう本当に切ない。
この作品に収められた「出会い/別れ」「楽しかった/悲しかった思い出」「ささやかな日常」。そういった人生のエッセンスがぎゅっと詰まっていて、そのひとつひとつの出来事が実際にわたしの身に起こったことのように、心の中にはっきりと刻み込まれました。不意にその思い出を思い返すと、本当に懐かしい過去を思い出してしまったようなそんなセンチメンタルな気分になってしまうから不思議でなりません。


そしてこの作品の肝とも言うべき部分なのですが、おばあさんが手紙を預かるというストーリーも最初は何だかよく分かりませんでしたが、その本当の意味が分かった時にはぐっときました。優しい言葉をかけることだけが優しさではないのだと。本当の優しさについて考えながら最後まで読み漁りました。


ポプラの秋は夏の庭に並ぶ湯本さんの傑作だと断言します。
湯本さんの季節シリーズはその時期その時期に読むべき作品なのだと実感しました。来年もこの時期になったらまた読むぞー。

*1:ふれあいという言葉は実は正しくなくて、互いに反発していたけれど理解しあって仲良くなるという言葉が適切なのですがよい単語が思いつきませんでした。語彙力不足!!