こころ

こころ (集英社文庫)

こころ (集英社文庫)

親友を裏切って恋人を得たが、親友が自殺したために罪悪感に苦しみ、自らも死を選ぶ孤独な明治の知識人の内面を描いた作品。鎌倉の海岸で出会った“先生” という主人公の不思議な魅力にとりつかれた学生の眼から間接的に主人公が描かれる前半と、後半の主人公の告白体との対照が効果的で、“我執”の主題を抑制された透明な文体で展開した後期三部作の終局をなす秀作である。

http://www.amazon.jp/dp/4101010137

先日読んだ「人間失格」がとても肌にあわなくて、わたしはこの手のちょっと前時代的な文学が苦手なのかも知れないと思い始めていました。そんなわけでこの「こころ」もあまり楽しめる作品ではないかも知れない...と思いながら手にしたのですが、もうそんなことはぜんぜん無くて、読み終えるまでの3日間は仕事とご飯と寝ている時以外は常にこの本を手にしていると言ってもいいほど、完全にこの作品にひきつけられてしまいました。単語の意味が分からなくて調べながら読んだし、文体が今とは微妙に異なるのでその点は繰り返し読み直しながら読んだのでかなり読みにくい作品ではあったのですが、そんなハードルは小さくて気にならないほど次が気になって読む手を止められない作品でした。
長く読まれる作品には相応の理由があるのだなと思い知らされました。


そういえば、この作品の後半*1を読み始めたときに不意に「これ読んだことあるな」という考えが頭に浮かんできて、少し読み進めるとその考えは確信へと変わりました。Kを出し抜いたあたりはもう内容が思い出せるほど既視感でいっぱいになっていて、わたしはいったいどこでこれを読んだのだろうと考えていたので、なかなか読み進めることが出来ませんでした。
下に至るまでの部分は明らかに未読であることは読んだ感覚からして明らかであり、そう考えるとわたしはどこかで下の部分だけを読んだことがあるということになるのですが、わたしの性格からしてそれはとても不自然に思えたのです。


しばらく本を読むのを止めてあれやこれや思い出そうとがんばって見た結果、ふと、これは高校の現代文の授業で読んだかもしくは模試の現代文で出題されて読んだいずれかだと思い当たりました。覚えている長さから考えると授業でやったとしか思えないのですが、でも模試で読んだような記憶もあり、それはどっちなのかは分かりませんでした。
とりあえず、10代のころに読んだことがあるというのが思い出せただけでもかなりすっきりしたので、安心して続きを読むことにしました。
もう10年以上前の、しかも特に当時面白いとも思わなかった作品のことをなんとなくとは言え覚えているのは不思議な気がしました。面白いと感じたかどうかは別として、それほど印象的な文章だったといえると思います。


本書を読んでもっとも印象に残ったのは、上で描かれていた親と子の関係や下で描かれた先生とその親戚の関係があまりに私自身のそれと類似していていたということです。田舎を離れるということの意味や、学歴に対する姿勢の歪さ、いずれも今から100年も前に書かれたものとは思えないほど今の私ですら身をもって経験/同意することが出来る話ばかりで思わず笑ってしまうほどでした。
私の家族関係は100年前のひとびとのそれと何も変わっておらず、これは家族関係が世の中で普遍なものとしてあるからなのか、それともわたしの家族関係があまりに旧石器時代の化石みたいな珍品なのかは分かりませんが、とにかくこの作品を読んで「先生」や「わたし」には共感せずにはいられませんでした。


時間をおいて読んだら、きっと違う感想を持つようなそんな作品なのでいつの日かまたこの作品を一度読んでみようと思います。

*1:下のあたり