優しい音楽

優しい音楽 (双葉文庫 せ 8-1)

優しい音楽 (双葉文庫 せ 8-1)

受けとめきれない現実。止まってしまった時間―。だけど少しだけ、がんばればいい。きっとまた、スタートできる。家族、恋人たちの温かなつながりが心にまっすぐ届いて、じんとしみわたる。軽やかな希望に満ちた3編を収録。

http://www.amazon.jp/dp/4575235202

今回の感想はネタばれ混みの感想なので、既読の人か今後読む予定のない人向けです。ご了承ください。



収録されている3篇のうちの表題の「優しい音楽」を読んでいて思わず「うーん」と、うなってしまいました。
このほんわかとしていてとてもかわいい表紙からは想像も出来なかったほど残酷というかやるせない話であり、さてどうしたもんかと私はため息をつきながら読み進めました。最後まで読んでやっと何となく救われたような気分にはなりましたが、でもどこか消化しきれない思いがお腹の中でゴロゴロと残っているのは感じています。
なぜここまで私がこの作品に抵抗を覚えるのかというと、たぶん私が人と比べられることがとても苦手だからではないと思うのです。その類似性や優劣を比べられることがとても苦手です。まして、自分が何かに似ていることで選ばれたり、好かれたりすることはとても耐えがたいことであり、たとえ、比べた結果として私自身が褒められていたのだとしてもそれは全然喜ばしくないし*1、もう比べるという行為を言語化されること自体が看過しがたい行為なのです。


でも言葉に出す/出さないは別として、実は日常生活ではいろんなものを比べてその善し悪しや優劣で優先順位を決めているわけです。より良い物を、よりお得な物を、より安全な物を、より自分に合う物をと、いつもいつもなにかとなにかを比べてはそのどちらかを選ぶということをしているわけです。
その比較対象が自分に及んだからと言ってなぜ不機嫌になるのか。この本を読み終わって真っ先に思った疑問はこれでした。
そしてこの疑問について考えれば考えるほど、比べられることで傷つく自尊心なんて自分への自信の無さとか劣等感が原因なんじゃないかという気がしてきて、恥ずかしいような情けないようなそんな気持ちがわいてきました。さらに「実は俺ってすごい小さい人間なんじゃね?」という自己嫌悪も湧き上がってきたのです。


けどなー...。うまく言えないけど、そーいう比べられんのは嫌なんだよー!!



瀬尾さんの作品を読んでいると、世の中には多様な形をした集団があるのだと教えられます。
以前読んだ2作品は家族の形の多様性と、壊れた家族の再生でしたが、この本は家族という集団をより一般的な集団に拡張して同じテーマで描かれているように感じました。
どんな形の共同体であってもちゃんと共存出来るし、壊れても修復出来る。そしてその集団を構成している自分は何もなくてもユニークな人間なんだという前向きなメッセージが感じられる作品でした。
瀬尾さんは「卵の緒」がかなりツボだったのでお気に入りの著者として脳内リストに登録されていましたが、この作品で私は決定的に瀬尾さんのファンになってしまいました。

*1:もちろん褒められなかったらなおさら嬉しくない気持ちは大きいです