勝てたのに勝たなかったことへの違和感


何となくもやもやして吐き出すところがなかったのでここに書いておきます。

もやもやしているのはPCの遠隔操作で逮捕されたゆうちゃんの件です。
知らない人はいないと思いますが、まずは事件の概要を書いておこうと思って調べてみたらもうWikipediaでページが出来ていました。


きれいにまとめられているので詳しくはこちらを読んでいただきたいのですが、容疑者として1年以上にわたって勾留されていた男性(ゆうちゃん)が処分保留として保釈されたものの、その後足がついて逮捕されました。

個人的に彼が犯人であることには違和感はおぼえなかったし、やっぱりそうなんだったのかと思う気持ちがまっさきにわいてきたのですが、その一方であれだけ綿密に計画を組み立てて無罪を勝ち取ろうというところまでたどり着いていた彼が、最後の最後であんな失態を犯したのか不思議でなりませんでした。

将棋に例えるならば、あとは詰めるだけというところまで読み切っていてあとはひとつひとつ手をすすめていくだけで勝てていたのに勝ちを捨てて投降してしまうような真似をしたのかわからなかったのです。

これが能力のない人がその無能さゆえに敗北したのであればまだわかるのですがそうではないのですごく理解に苦しむのです。


そんなふうにこの事件のことを考えていたら、むかし読んだマンガのことをふと思い出しました。


せっかくなのでちょっと自分の思い出話から始めたいのですが、わたしは昔から少年マンガ雑誌が大好きで中学生くらいから定期的に購読して読んでいました。


ジャンプ、サンデー、マガジン、チャンピオン、ヤンジャンなどなど、そのときそのときで読む雑誌はどんどん変わりましたが、毎週/毎月の楽しみとして長いあいだマンガ雑誌を購読してきました。


そんなわたしがいま定期購読しているのはヤンジャンと月刊マガジンの2冊です。

ヤンジャンは大学の研究室で読んだことをきっかけに読みだして自分で買って読むようになったのはここ5年くらいですが、「嘘喰い」が終わるまではたぶん買い続けると思います。「嘘喰い」は一度微妙な時期がありましたがさいきんまたおもしろくなってきましたよね。

そして月刊マガジンはわたしが小学生のころから読んでいるのでもう25年以上の付き合いになります。

もともとはうちの父が大好きで毎月買っていてそれをいっしょに読んでいたのですが、大学に入って生家を出てからは自分で買って読んでいます。月刊マガジンは「鉄拳チンミ」や「なんと孫六」がずっと好きで読んでるし、最近だと「ましろのおと」や続編の始まった「修羅の門」、「カメレオン」の後日談とも言える「くろアゲハ」がすごく好きで毎月すごく楽しみにしています。

残念ながら「いけない!ルナ先生」みたいな青少年の心をもてあそぶ作品はもう掲載されていませんが、それでも雑誌全体のノリは昔からあんまり変わってなくてその時代の流れに鈍感な感じも好きだったりします。


そんな大好きな月刊マガジンで10年ほど前に「GUT's」というテニス漫画が連載されたことがありました。

テニスをする少年が主人公だったこととやたら過激な内容+いろいろなタイプの選手が出てきておもしろかったことはおぼえているのですが最後はどうだったのかとかはあまりおぼえていません。単行本を読めば案外あっさりと思い出すかも知れませんが...。


そんな中にあってひとつだけ記憶に残っているエピソードがあります。
それは勝負事で勝ちに徹しないとひどい目にあうぞという話でした。


あるプロ選手が、大きな大会の試合で相手のミスから決定的なチャンスを得るのです。


ラリーの応酬中に相手は転んでしまい、さらにボールは高くあがってスマッシュをすれば勝利は決まるという状況が転がり込んできたのです。

相手は転んでいるし、イージーボールが返ってくるから打ち返すことも簡単にできる。

もはや勝ちは揺るがないという状況を手に入れるのですが、勝ちが目前に迫ったことで逆に「ミスをしてしまうことへの恐怖」にかられてしまいなんと簡単なトスボールを相手に返してしまうのです。その手にした勝利を投げだしたような態度は「相手のミスに乗じて勝ちを得ようとするのはフェアではないという甘っちょろい考えをもっている」という誤解を与え、そして相手にとっては「全力で戦っていない」という屈辱を与えてしまいます。

そのナメた態度に怒った相手選手がそのトスを全力で打ち返したら、トスで返した選手の顔にボールが打ち返されてその選手は失明してしまうのです。

このエピソードが教えてくれるのは「勝てるときは勝ちにいけ」ということであって、相手のミスだろうがなんだろうが勝ちにこだわるのがプロフェッショナルなんだということでした。さすがにプロの試合でこんなことをする人はいないんじゃないかと思うわけですが、でも目の前に勝利が転がり込んできたときに


わたしがゆうちゃんの行動におぼえた違和感は、あれだけ自分が犯人であるという証拠をつかませないようにしていた彼が、警察はもう逮捕することができないであろうという状況までもっていっておきながら最後に自ら尻尾を出して捕まるような愚行を犯したのかということへのものでした。

勝ちに徹していたプロが、勝利を目前にした瞬間に棄権をしてしまうようなそんな妙な行動のように思えてならなかったのです。


ただ、その後の報道を追いかけていくとネット上では決してしっぽを見せていなかった彼も現実の世界ではたくさんのミスを犯していて、捜査当局側から見れば疑うに十分足りる証拠や根拠があったようでして、その点はわたしの見込み違いだったなと。

そもそも彼のような狂人の考えを、わたしのような凡人が図ると思うこと自体が思い上がりだったんだなと思わざるを得ません。