「あなたがここにいて欲しい」読んだよ

懐かしいあの日々、温かな友情、ゆっくりと育む恋―常に目立たず控えめな吉田くんは、さまざまな思いを秘めて大学生活を営んでいた。小学校時代の図書室での幸福感。小田原城のゾウ、親友でヤンキーの又野君、密かに恋心を寄せる舞子さん…。やがて、高校卒業後に音信が途絶えていた又野君と再会。2人に去来する思いとは。そして舞子さんとの恋の行方は?(表題作より)名作「ハミングライフ」を含む、新たな青春小説の傑作。

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大人になると誰もが心の中に抱いているであろう原風景とも呼べる「思い出の中の風景」。育った環境はみな違うので原風景は違って当然なのですが、この本を読んでいると、まったく違う原風景を持つわたしも何だか懐かしさをおぼえてしまう不思議な作品でした。


わたしはあまり他人と性急に距離を縮めたいと思うことがなくて、仲良くなれそうだったら一緒にいればいいしそうじゃなかったら距離を取ればいいじゃないと思っているのですが、たまに「一度話をしたらどうしてもある程度は仲良くならなければいけない」と思い込んでいるがごとく10m/sくらいの速度で距離を縮めようとする人がいます。
それが単なる好意であれば嬉しいのですが、どうも大して仲良くなりたいわけではないのにとりあえず距離を縮めとけみたいな感じで近寄られると不愉快でしょうがなくなります。「そんなに急に近づいてきて何か狙ってんの?」と。
その点、この作品で描かれる人間同士の関わり合いというのはとても自然でして、わたしの思う理想的な他者との関係の築き方が描かれていたのがかなり好印象でした。わたしはこういうお話は大好きです。


ただ、ひとつわからなかったのは、物語は常に主人公の吉田君の視点で進むのですが作中では吉田君は「吉田くん」と呼ばれながら話が進むのです。もし視点が吉田君の視点であるとすれば、「吉田君」は「わたし」とか「おれ」とか百歩譲って「吉田」になるうと思うのですが、なぜか「吉田くん」なんですよね。いったい誰の視点なの?これ?と首をかしげながら読んだのですが、結局最後まで何だかよく分かりませんでした。
そこだけ気にしなければいい話で終わったんですが、ちょっとだけモヤモヤした気分が残ってしまいました。


あと、表題作以外の作品である「ハミングライフ」も同じように相手との距離の取り合いがとても絶妙で非常に読んでいて楽しい気分になりました。