「2ch、発言小町、はてな、ヤフトピ ネット釣り師が人々をとりこにする手口はこんなに凄い」読んだよ


創作話を作り、読者の反応を楽しむ「ネット釣り師」たち。時には世論を動かすきっかけを作ってしまう彼らは、どういった手口で読者をダマし、そしてトリコにするのか。その鮮やかな手口の数々を、彼らの動向を15年間追ってきた人気ブロガーであるHagexが明らかにする。

http://www.amazon.co.jp/dp/4048661442


わたしがインターネットに初めて接続したのはいまから15年前の大学3年生のときでした。


当時はWindows98が出始めたころでして、同じ学科の友だちもこのころ急にパソコンを買いだして「時代はインターネット!」みたいなことを言っていたことを思い出します。そんな周囲の盛り上がりがいまいちわからず、そもそもコンピューター系はすごく苦手でよくわからなかったわたしは「インターネットってなんだ?」という状態のまま、まわりから取り残されてしまいました。

インターネットが気にはなるものの、当時のパソコンはどんなに安くても20万円くらいする代物でして先立つものがない学生にはどうしても手が出ませんでしたし、服飾にちょっとハマっていた時期でしたのでそこまで本気でパソコンを買おうという気持ちにはなりませんでした。


欲しいけど手が届かないパソコン


そんな状態が続いたためかパソコンがすっぱいぶどうになりつつあったのですが、そんなある日、自分がインターネットを無料でできる環境に身を置いていることを気付きました。

大学3年になった年度からわたしは大学付属の図書館でアルバイトを始めました。
平日は夕方5時から7時まで、土曜は朝9時から夕方5時までカウンター業務+開架の整理をしていて、業務は同じアルバイトの学生と2人ペアですることになっていました。いつもいっしょにアルバイトをしていた同い年の女の子がすごくかわいかったのですがその話はまた別の機会にするとして、とにかくそんな環境で毎日アルバイトにいそしんでいたわけです。

開架の整理は1時間かからず終わるので、業務の大半はカウンター業務でした。
うちの大学は1年次は全学部が同じキャンパスに集まるものの、2年以降は県内各地のキャンパスに分散するため学生の数も教員の数も割と少なくてつまりカウンターはとても暇だったのです。とくに土曜日なんてほとんど窓口にくる人はいなくて、ただただカウンターに座っているだけで一日が過ぎていきました。

そんなある日、あまりにやることがなかったので貸出を行う端末をあれこれのぞいているとmosaicというアプリケーションが入っていることに気付きました。なんだかわからなかったのですがためしに立ち上げて調べてみたところ、どうやらいわゆるブラウザーのようでした。と言っても画像の出ないテキストベースのブラウザーでして、おそらくこれが最初のインターネット接続だったと思います。

しょうじきに言ってそのときどこにつないだのか覚えていませんが、それでも「この端末がどこかとつながっている」ということに興奮したわたしはそれからインターネットにつよく興味をもつようになりました。その後、Netscape Navigatorも入っていることを教えてもらったおかげで画像つきのサイトも見ることができるようになったわたしは友だちからおもしろそうなサイトを教えてもらってあちこちのぞくようになりました。

その後、4年生になって配属にされた研究室にはLinuxWindows2000がありまして、そちらでも存分にインターネットが楽しむことができました。さらにちょっとさかのぼりますがお金を貯めて自分のパソコンを買ったのが1999年で21歳のとき。このあたりからインターネットに本格的にのめりこんだ時期だったと記憶しています。


そして2000年を過ぎると2chをおぼえてしまい、せっかく大学院に入ったのに研究もせずに2chに入り浸る(しかも研究室の端末で!)という本末転倒的な状況におちいってしまいます。最初の1年くらいは見ているだけか誰かの立てたスレッドにコメントを残す程度でしたが、そのうち祭りと呼ばれる騒ぎにのっかってみたり、自分でスレッドを立ててそこであれこれ質問に答えてみたり荒らしにきた人となかよくなったりやっぱり荒らされたりと匿名という立場での交流を楽しんでいました。

その後は侍魂といったテキストサイトを教えてもらったのをきっかけにテキストサイトをよく読むようになったり、大学のサーバーやレンタルサーバーにCGIを設置してポエムみたいな日記をたまに書いたりとあれこれありましたが、2005年からはこのブログを拠点としてあちこちと交流を続けていていまでもネットでの活動は続いています。

とくに嘘か本当か分からない情報がちりばめられている場所は大好きで知恵袋や発言小町はてな匿名ダイアリーなんかはよく読んでいます。

って、そういえばなにを書くつもりだったんだっけ...と思い返してみるとHagexさんの本を読んだので感想を書こうと思ってたのでした。
本を読んだら自分とインターネットの関わりやその中でもとくに惹かれている匿名での独白のおもしろさについて思いを馳せてしまい、こんなことを書いてしまいました。


本書で紹介されるのは、ネット上で行われている釣りと呼ばる行為について。

釣りという行為については本書でくわしくまとめられていますが、簡単にまとめると「多くの人の耳目や反応を集めるために創作を投稿する行為」です。多くの人から反応を得ることが釣りを行う人たちの楽しみであり、モチベーションでもあるのですが、そういった人たちが釣りを行うに至る動機や手口についてまとめているのが本書です。

上でも書いたとおりわたし自身も2ch*1や知恵袋、発言小町あたりは大好きでいつも読んでいますし、そこに投げかけられた投稿の中には釣り目的であるものが少なくないことも十分承知しています。

では投稿のどこを読んでそれが釣りだと判断しているのかというと、おおむね感覚的なレベルの情報に基づくものであって「これが証拠だ!」と言えるような「なにか」というのは明確ではありません。少なくとも釣りかどうかを判断するにいたるプロセスを言語化する自信はありません。

この15年間に見てきたさまざまなアレコレから得た「作品からただよう釣りの匂い」みたいなものをかぎ分けることで釣りを釣りだと判断しているというのが率直なところです。そしてわたしの知るかぎり、世の多くの人たちもまたそういった感覚的なレベルで釣りかどうかを判断しているのだろうと思っていました。


ところが、本書のすごいところはそういった暗黙知によって組み立てられた作業であるはずの「釣りかどうかを判断するプロセス」がちゃんと文章化されていて、読んだ人がその方法論を試せるレベルにまで組み立てられていることです。そこがとにかく驚きでした。わたしの中ではこういった釣りかどうかを見分けることは「経験をとおして理解していくしかない暗黙知である」と思っていたのですが、そうではなくてちゃんと形式知に変換できる知識だったんですね。

そしてさらに感心するのがそのひとつひとつの方法論の細かさと徹底ぶり。
ときには時系列をExcelでまとめてまでそれが釣りであるかどうかを調べるという全力っぷりに正直ドン引きしました。もちろんそういう人もいるかなとは思っていましたが、実際にやっていると書かれると「お、おう...」としか言えなくなります。さらにそういったことをすごいがんばって実践しているというわけでもなく、まるで呼吸をするがごとく自然にこなしているようでそれまたすごいというかなんというか。


わたしは文章を書くときはいつもフィーリングでささっと書いてしまうし、他の人が書いた文章を読むときもテンポや誤記以外はあまり気にしません。自然と読める程度に整合性がとれていればスッと読んでしまいます。そんな悠長な生き方をいままでしてきたわたしにしてみれば、世の中にはこんなに他者の書いた文章(しかもネットに書き散らかされたもの)を一語一句一文を精緻に読み解こうとしている人がいるということはいまさらではありますがとても新鮮だったし、その具体的な考え方なりやり方を知るよい機会になったなと思いました。

読み終えたいま、こうやってネットに文章を書いて残すことがちょっと怖くなりましたが、無防備過ぎた自分にとってはむしろよい方向の刺激になるような気がします。


あと、ひとつだけこの本を読んだ弊害というか読まない方がよかったなと思うことがあります。
それはこの本を読んでしまうと、釣りっぽい文章を見かけるたびに「これは釣りかどうか?」ということをいちいち真面目に考えたくなってしまうということです。Hagexさんのやっている判定方法を知らなければいつもどおり適当に釣りかどうかぼんやり考えておしまいだったのに、ちゃんとした方法論を得てしまったが故にどうしても試したくなってしまうのです。

怪しい文章を見つけてはまじめに「こことここはちょっと矛盾してそうだからあとで調べて裏取ろう」とか「ここがフックになってるな」とか考え出してしまうわけでこれほんと面倒なんです。いままでみたいに釣りを適当にスルーできる生活に戻りたいです(切実)。


内容はとてもおもしろいのですが、読むだけでそんなめんどくさい性格になってしまう本なのでそうなっても後悔しない人にしかおすすめしません。

*1:さいきんはまとめサイトばかりでしたが