「アシンメトリー」読んだよ

アシンメトリー (角川文庫)

アシンメトリー (角川文庫)

結婚に強い憧れを抱く女―朋美。結婚という形を選んだ男―治樹。結婚に理想を求める男―貴人。結婚に縛られない女―紗雪。結婚願望の強い朋美はある時、友人の紗雪が突如結婚を決めたことにショックを受けた。紗雪の相手は幼馴染みの治樹。心から祝えない朋美だったが、ふたりの結婚パーティーで出会った年下の貴人と恋仲になる。しかし、紗雪と治樹の結婚には秘密があった…。現代における「結婚」とは何か?アシンメトリー(非対称)な男女4人を描く、珠玉の恋愛小説。

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「完全なものがいいか、それとも不完全なものがいいか?」


かなり抽象的な問いではありますが、もしこんなことを聞かれたら大抵の人は「完全なものがいいに決まってるじゃん」というんじゃないかと思います。だれだって不完全なものより完全なものの方がいいですよねー。


たしかに「完全なもの」というのはそれ自体で完結しているところが美しいし魅力的だと思うのですが、一方でそれ以上手を加える余地がないのはとてもつまらないと感じるのです。学問の理論体系などは完全なものがいいと思うのですが、そうでないものについては「安定的で何も変わらない」ことや「手を出す余地がまったくない」ことを考えると、完全であることってわたしからみたらむしろマイナスだよなーと感じてしまうのです。


本作は男女4人が結婚とか人間関係でギクシャクしたり悩んだりするというお話でして、考え方や生き方、価値観が異なる人間同士をアシンメトリーという言葉で表現しています。
友だちになる相手や付き合う異性というのは、似たもの同士なんて言葉で表されるようにいろんな意味で近い人間同士がくっつくことが多くあります。ところがそういう相手というのは最初は気が合って楽しいし悪くないんですが、お互いから受ける影響というのがあまりないので変化に乏しく、あっという間に飽きてしまいます。


これは上で書いた「完全なもの」と同じでして、両者の関係が現状で完結してしまってるのがよくないんじゃないかなと。永久に変化もなく続くものに没頭できる人であればよいのでしょうが、そんな人がこの世にどれだけ多くいるのか疑問ですし、大半の人は日常になにかしらの変化かその予感がないと辛いんじゃないかなと思います。


だから考え方や大事なものが違う人と関わりあうことはすごく大事だよなと思うし、「普通」という言葉でお互いの共通認識が共有できない人、つまりどこかにアシンメトリーな部分を持つひとがそばにいることってすごく大事だよなーと思うんですよ*1


ちなみに、ここまで書いて思い出したのですが、わたしが対称的なものよりも非対称的なものの方がおもしろい!と思うようになったきっかけとして、物理学のひとつのトピックである「CP対称性の破れ」が関係しているんじゃないかという気がしています。これは宇宙にはなぜ粒子と反粒子が同数だけ存在しないのか?ということを説明する際に出てくるトピックなのですが、このアシンメトリーな特性が無ければ粒子と反粒子はすべて対消滅してしまい、この宇宙はなかったかも知れなかったんですよね。
そう考えると、やはり完全ではないことがあたらしいものを生み出すきっかけを作っているんだなと思うし、シンメトリーであることよりもアシンメトリーであるものの方がおもしろくていいなと思ったのでした。


(関連リンク)

*1:ただ、結婚をする場合には大事なものや価値観が似てないと大変なんじゃないかなと思います。