「わたしを離さないで」見たよ


キャシー、ルース、トミーの3人は、小さい頃からずっと一緒。田園地帯の寄宿学校ヘールシャムで絵や詩の創作に励んだ日々。しかし、外界から完全に隔絶されたこの施設には幾つもの謎があり、キャシーたちは普通の人たちとは違う“特別な存在”としてこの世に生を受けたのだった。18歳の時にヘールシャムを出た3人は、農場のコテージで共同生活を始めるが…。カズオ・イシグロのベストセラー小説を映画化。

『わたしを離さないで』作品情報 | cinemacafe.net

TOHOシネマズシャンテにて。
原作未読で鑑賞しましたが、映画は映画として楽しめたのでとてもよかったです。


穏やかに過ぎていく学校での生活を描いた前半部分は、大人ではなく子どもたちの視点で切り取った学校という場所・思い出の美しさと残酷さをとてもよく描いているという印象を受けたし、学校を離れてからの生活を描いた中盤から後半にかけては自らに与えられた残酷過ぎるとも言える役割と向き合い、そしてそれを淡々と、けれど成長する過程で生まれるさまざまな変化と戦いながら受け入れていく人たちの様子が描かれていて非常に心の中に重いモノを残しました。


ずっと特別だと言われながらもどう見ても普通にしか見えなかったへールシャムの生徒たちに与えられていた悲しい宿命。
"提供者"と呼ばれる、他者の命をつなぐために必要な存在としての生命。そんなものは物語を構成するうえで作られた単なる設定だと言われたらそのとおりなのですが、でもそれだけでは割り切れない、「生きとし生けるものすべて、他者の犠牲の上に自らの生を成立させている」というのは不変の事実ですし、その点を意識ているであろうこの設定と向き合って考えると大変示唆深い作品だと感じずにはいられません。



それと、映画があまりによかったので宇都宮に戻ってきてからすぐに原作を買いに行って読みましたが、こちらもすばらしくよかったです。


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)


映画で観たあの世界を脳内に再生して一字一句を反芻しながら楽しんで読了しました。
ただ、当然映画よりも小説の方が物語の網羅性は高いですし、本作もまた映画だけでは説明の足りない部分がいくつかあってその点を補うためには小説を読むことで補完できます。例えばノーフォークに関するくだりなどがそのよい例ですが、映画を観ただけでは理解が難しいシーンについてもよくわからないながらも何となく鑑賞していましたが、そういった違和感をいっさい残したくないという場合には、触れる順番は原作→映画の方がいいとわたしは思います。
そうすれば、話の全容が見えずに首をかしげることはないはずです。


わたしは普段、翻訳した文章があまり好きではないので海外の小説は読まないのですが、これはとても楽しめましたし面白かったです。
英語を直訳したような訳はありませんでしたし、作品全体においてとても読みやすく、そして無駄な抑揚が極限まで抑えられたすばらしい内容でした。そんなわけで、映画を観る前に原作に軽く目を通してから観ることをおすすめしておきます。


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