「ごきげんな裏階段」読んだよ

ごきげんな裏階段 (新潮文庫)

ごきげんな裏階段 (新潮文庫)

アパートの裏階段。太陽も当たらず湿ったその場所には、秘密の生き物たちが隠れ住んでいる。タマネギを食べるネコ、幸せと不幸をつかさどる笛を吹く蜘蛛、身体の形を変えられる煙お化け。好奇心いっぱいの子供たちは、奇妙な生き物たちを見逃さず、どうしても友達になろうとするが…。子供ならではのきらめく感情と素直な会話。児童文学から出発した著者、本領発揮の初期作品集。

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4101237352/

わたしは基本的に非科学的なことはあまり信じない方ですが「子どもには見えるけど大人には見えない世界がある」ということだけはなぜか強く信じています。その「大人には見えない世界」はこの世界とまったく同じようなものではないと思っているのですが、でもこの世界のどこかとは不定期に繋がってそこから互いの世界が垣間見えることがあると本気で信じているのです。はい妄想です。
この信仰ってたぶん小さい頃に見たジブリ作品の影響がものすごく大きくて、特にトトロあたりなんかすごく感化されたように感じています*1


本作は、不意に降りかかる非日常的な出来事を描いた作品であり、まさに上述したような「こことは別の世界」とリンクして起きてしまった不思議な出来事にまつわるショートストーリーが3編掲載されています。本作のおもしろいところはそれぞれのストーリーが「とあるボロアパートの裏階段」を舞台にしているというところと、子どもだけではなく大人もその不思議な出来事を共有していると言う点です。


まず裏階段を舞台にしていると言うのは非常にわかりやすいというか、異世界への入り口のモチーフとして裏階段が選ばれたというわけなのです。この裏階段という寂れた場所こそが別の世界と繋がっているための入り口であるという設定は、「薄暗くて怖い」「階段は別の階層への道である」ことから子どもにとっては畏怖の念をおぼえやすい場所ですし、何よりも"裏"という言葉の持つ存在感が非常に説得力を生み出しているように感じるのです。ここだったら別の世界に繋がっててもおかしくないね的な雰囲気がすごくあると思うわけです。
わたしは裏階段→異世界とジョイン!!という流れはすごくいいと思います。


そしてもう一点。他の作品ではこういった不思議な世界を行き来出来るのは子どもだけの場合がほとんどですが、この作品では大人もこの不思議な世界に踏み込んでいることに非常に違和感をおぼえました。それがなぜなのか考えてみたのですが、理由としては本書のターゲットが子どもだからではないかと思い立ったのです。つまり、本書を読むのが子どもであると仮定してみると、子どもだけが不思議な世界と繋がってしまうよりも、その不思議な体験を共有できる大人の存在があった方が読んでて楽しいんじゃないかなーと感じたのです。
もちろん子どもだけの世界として完結した作品の方が自立心というか冒険心を煽ってくれそうですが、逆にこの作品のように日常を舞台にしているのであれば、子どもと同じ目線で自分を理解してくれる大人の存在ってすごく安心させてくれるんじゃないかと思うわけです。まー、まったくの妄想ですけど。。。
でもわたしはこれを読み終えて、内容はともかく子どもにも読ませたいなと感じました。


本当は本書は夏に読もうと思って取っておいていたのですが、どうしても読みたくてついつい手に取ってしまいました。
読み終えて思ったのは、やっぱり読むのは夏まで待てばよかったな...という後悔と、でもおもしろかったから読んでよかったなと言う二つの気持ちでして、夏休みにまた再読しようと心に決めたのでした。

*1:でも一番好きなジブリ作品は「紅の豚」です